マイカーの自動運転にステランティス参戦【レベル3販売情報まとめ】
~ホンダ、メルセデス、BMWに次ぐ4社目、ターゲットは欧米の通勤者~
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2025年2月20日、ステランティスは、グループ初の自動運転レベル3のシステム「STLA AutoDrive」のバージョン1.0をリリースした*1。当初、2024年の発売を目指していたが*2、少し遅れての発表となった。
ステランティスは本社をオランダに置くものの、その内実は多国籍自動車OEMで、米国・イタリアの「FCA」とフランス「PSA」の対等合併により2021年1月に発足した*3。傘下には、米国のクライスラー、Jeep、イタリアのフィアット、アルファロメオ、フランスのプジョー、シトロエンなどのブランドを擁する。
今回、どのブランドのどの車種が最初にSTLA AutoDriveを搭載するのかは、まだ公表されていない。ステランティスは、燃費規制や電動化への対応、ADAS・自動運転機能の拡充など、多方面の開発費が嵩む自動車業界での生き残りを掛けて誕生した。STLA AutoDriveも100%内製ではなく、BMWとの提携により開発されたシステムである*4。
ステランティスは、グループのシナジー創出のため、車のサイズやパワートレインに応じて、SMALL/MEDIUM/LARGE/FRAMEの4類型のプラットフォームに基幹システムを集約し、ブランド間で共用する構想を打ち出している。また、最初に発売される地域は、主力ブランドの本拠地では、自動運転に関する法整備が遅れているイタリアを除き、米国の一部の州かフランスが、本拠地以外ではドイツが有力と考えられる。なお、実際の車両に搭載されれば、レベル3の市販ではホンダ、メルセデス、BMWに次ぐ4社目となる。

STLA AutoDrive1.0のレベル3の機能が利用できるODD(運行設計領域)は高速道路限定である。また、当初は渋滞時に同一車線上で時速60km(時速37マイル)までの走行時に限られるが、将来的には、OTA(Over the Air)での更新により時速95km(時速59マイル)まで引き上げる予定としている。
ただし、直近のステランティスは、主力市場である欧米での販売低迷、特に米国での在庫過多に苦しんでおり*5、タバレスCEOは2026年までの任期満了を待たずに退任に追い込まれた*6。STLA AutoDrive搭載車の投入時期に遅延が生じないとも限らない。
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<1.これまでのレベル3開発状況 ~渋滞時の高速限定/世界初は日本、その後は独米で販売実績~>
世界初のレベル3の市販車は、2021年3月に日本で発売されたホンダのレジェンドであった。ただし、既に販売終了しているため、現在、日本で購入可能なレベル3の車両は存在しない 。
ホンダのあと、メルセデスがドイツと米国の一部の州で、BMWがドイツでオプション機能として、レベル3を売り出している。
自動車は世界的に流通する商材で、その安全性を担保するために、各種機能の性能については国際協調の議論が重視されている。その議論の場である国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)において、当面の間、レベル3は高速道路での利用に限定されることとなっている※。
※一連の経緯は過去のレポートに詳しくまとめているため、参照されたい:
【2024.07.02発行】自動運転レベル3:乗用車・マイカーの自動運転の現在地
~ホンダ、メルセデス、BMW~

/以下、画像は筆者撮影
ステランティスの「渋滞時に時速60km(時速37マイル)までの速度」は、2020年6月にWP29で最初に加盟国が合意したレベル3のODDである。ホンダ・メルセデス・BMWの3社も、同一のODDでレベル3を売り出した。
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<2.次世代のレベル3の開発へ ~高速道路限定で時速95㎞の実現へ~>
その後、WP29での議論は進展し、2022年6月には乗用車では時速130kmまでの速度で走行でき、車線変更も認められることとなった。ただし、このODDを満たす車両の販売情報は今のところ無い。現時点では、2025年初頭にメルセデスがドイツで「同一車線上で、追随可能な車両が検知できる場合に時速95km」にアップグレードを予定しているのが最も高機能なレベル3である*7。ステランティスがアップデートを見込んでいるという「時速95km」は、メルセデスをベンチマークとしたものと考えられる。
レベル2までは、あくまでも高度な安全運転支援機能であり、運転を行っているのは人間のドライバーである。レベル3以上が、システムが一部またはすべての運転を担う自動運転であり、OEMの製造物責任を問われる可能性は高まる。また、当面のあいだは、手動運転の自動車が大半を占める中に、少数の自動運転車が混在することとなる。混在の環境下で安全性を担保するために、速度に制約があるのも頷ける。
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<3.将来のレベル3搭載車 ~ホンダがレベル3を再投入、ただし、市場は北米~>
日本勢では、ホンダが再度レベル3の販売を予定している。ただし、次の市場は、日本ではなく北米である 。
ラスベガスで毎年1月に開催されるCES(Consumer Electronics Show)において、2025年は、ホンダから0シリーズのSALOONとSUVのプロトタイプが公開された。SUVは2026年上半期に、SALOONは2026年中に、北米で販売が開始される予定となっており、いずれにもレベル3が搭載される*8。北米の後、日本や欧州への展開が予定されているものの、時期の目途などは公表されていない。

【CES2025で公開されたホンダ0シリーズのプロトタイプ/左:SALOON、右:SUV】


ソニーホンダのAFEELA も、将来的なレベル3の搭載を見込んだ車両開発を行っている。
2025年1月に米国で受注を開始したAFEELA1は、当初はレベル2+の機能のみを持つが、OTAによりレベル3へのアップデートに対応可能な拡張性を持っている*9。
ホンダ、ソニーホンダともに、搭載予定のレベル3のODDの詳細は公表していない。市場からの当然の期待として、5年前に発売したレジェンドの性能を上回る必要があることと、先行するメルセデスの存在を踏まえると、やはりメルセデスの「時速95㎞」がベンチマークになろう。
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<4.おわりに/レベル3にニーズのある市場とは?>
日本以外で販売情報が増えるレベル3だが、 市場の成長可能性に以下の2点が大きく影響していると考えられる:
① 高級車セグメントの車両が受け入れられる市場であること
② 高速道路を使って通勤する市場でなければユーザーがメリットを感じにくいこと
【ソニーホンダ/AFEELA1】

レベル3のメリットは、自動運転システムの作動中に人間のドライバーが運転から解放される点にある。動画視聴やWeb会議、スマートフォン等のデバイスの操作など車内にいながら他の作業を行うことが可能になる。一方で、ODDを外れる場面では、システムから運転の交代を求められるため、睡眠は認められず、いつでも運転操作に戻れる意識を保っておく必要がある。システムと人間のあいだで、それなりの頻度で運転行為が行き来することになる。
ドイツと日本の道路事情や通勤事情の違いについては、過去のレポート※に詳しくまとめているが、日本の自動車通勤は一般道が中心である。目下、高速道路は一般道の混雑緩和用に利用が促されている状況にあり、サブのルートという位置付けになっている。つまり、欧米と比較すると、日常的にレベル3のマイカーから恩恵を感じられるライフスタイルとは言い難いのが日本市場である。
※参考レポート【2024.10.10発行】
メルセデス、ホンダから自動運転レベル3の次世代車発表 ―メルセデスは高速道路で時速95km実現へ―
<レベル3の販売情報まとめ/筆者作成>

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*1 Stellantis “Stellantis Unveils STLA AutoDrive, Hands-Free and Eyes-Off Autonomous Technology for a New Era of Driving Comfort”, February 20, 2025
*2 Stellantis “Stellantis Targets ~€20 Billion in Incremental Annual Revenues by 2030 Driven by Software-Enabled Vehicles”, December 7, 2021
*3 Stellantis “The merger of FCA and Groupe PSA has been completed”, January 16, 2021
*4 前脚注2
*5 Stellantis “Full Year 2024 Results”, February 26, 2025
*6 Stellantis “Board Accepts Carlos Tavares’ Resignation as Chief Executive Officer”, December 1, 2024
*7 Mercedes Benz “Support Speed of up to 95km/h on German motorways”, December 17, 2024
*8 Honda “Honda Presents World Premiere of Honda 0 Saloon and Honda 0 SUV Prototypes at CES 2025”, Jan 8, 2025
*9 AFEELA1ウェブサイト「800TOPS」 (visited March 3, 2025)