生活必需品が高騰する中、家計は何を節約しているのか
物価が高騰する中、個人消費におけるしわ寄せはどこにいっているのか。物価上昇前の2019年と物価上昇の影響を受けた2024年とを比較すると、家計の消費行動の変化が浮かび上がる。食料や住居、光熱・水道といった生活に必要な品目のウエイトが上昇する一方で、教養娯楽や被服及び履物といった選択的支出のウエイトが低下していることが分かる(図表1)。その他の消費支出について、その内訳をみると、2019年から大きくウエイトが低下している項目は、こづかい(▲1.2%pt)や交際費(▲0.7%pt)となっている。価格が高騰しても購入が避けられない品目への支出が増加する一方で、そのしわ寄せが選択的支出にいく構図が鮮明となっている。内閣府が2月に公表した日本経済レポートにおいて、2023年の選択的支出のマイナス幅拡大が指摘されているが、2024年においてもこうした動きが継続しているものとみられる。
興味深いのは交通・通信の2019年からのウエイトの低下が▲1.0%ptと大きいことだ。主な要因は携帯電話通信料(▲0.6%pt)にある。政府による値下げ要請を受けて2021年に携帯電話通信料が大きく下がったことから、家計負担は大きく減少している(図表2)。しかし、こうした恩恵は全ての世帯に及んでいるわけではない。消費支出に占める携帯電話通信料のウエイトを世帯主の年代別にみると、若年層ほど支出に占める携帯料金のウエイトが低下し、年代が上がるごとにウエイトの低下幅が縮小し、70歳以上になると逆にウエイトが上昇してことが分かる(図表3)。高齢層になるほど低料金プランへの変更手続きを行っておらず、料金引き下げの恩恵を受けられていないものと考えられる。
2025年も高い賃上げが見込まれているものの、値上げラッシュが予定されていることから、実質賃金が安定的にプラス圏で推移するにはまだ時間がかかりそうだ。当面の間は、選択的支出が切り詰められる状況が続くだろう。また、賃上げの恩恵が及びにくい高齢者層にとっては物価高の負担が重くなりやすい。しかし、携帯電話通信料の例が示すように、節約の余地は残されている。長引く物価高が家計の消費行動にもたらす変化と、それによって生じる各産業への影響について、今後も注視していく必要があるだろう。

