2025年の春闘で中小企業は賃上げペースを維持できるか
春闘の労使交渉が本格化している。賃上げは日銀の掲げる物価安定目標の実現に向けた最重要項目の一つであり、利上げの動向を占う上でも重視される。2025年の春闘を巡っては、労使共に賃上げを定着させる方向性は一致しており、大企業の中には既に高い賃上げを提示している企業も少なくないことから、今年も高い賃上げが実施されることになるだろう。
そうした中、懸念されるのは中小企業による賃上げの動向だ。2023年・2024年の2年間に渡って、中小企業は高い賃上げを続けてきたが、大企業との差は2023年が0.35%pt、2024年が0.65%ptと拡大傾向にある(図表1)。筆者は、2025にこの差が更に広がる可能性が高いとみている。
理由として挙げられるのが、中小企業の賃上げに占める防衛的賃上げの割合だ。防衛的賃上げとは、企業業績の改善がみられない中で止む無く行われる人材の繋ぎ止めを目的とした賃上げを指す。日本商工会議所の調査をみると、中小企業のうち防衛的賃上げを行う企業の割合が上昇傾向にあることが示されている(図表2)。また、中小企業の労働分配率は大企業と比較して高く、賃上げを行う余力も限定的である(図表3)。転職市場における募集賃金の動向をみても、これまでは大企業と小規模企業の賃金の差は縮小傾向にあったが、足もとでは拡大傾向へと変調しており、小規模企業における防衛的賃上げに陰りが生じていることが示唆される1(図表4)。企業によっては度重なる賃上げ疲れの影響が既に出ているものとみられる。
春闘では、まず大企業から交渉が始まり、中小企業の交渉が開始されることになる。3月での集中回答日や第1回回答集計においては、強めの数字が示される可能性が高い。この時点では、賃上げムードは一層の盛り上がりを見せることが想定される。しかし、大企業の動向だけをみて賃上げ動向を楽観視し、遅れて判明する中小企業の賃上げ動向を見誤れば、日本経済の動向や日銀の金融政策をも見誤ることになりかねない。賃上げ3年目となる2025年においても中小企業が高い賃上げを実現できるか否かは、日本経済の先行きを考える上で非常に重要な注目点となるだろう。
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- 法人企業統計における企業規模が資本金の金額で分類されるのに対し、HRog賃金Nowにおいては従業員数で分類されているため、両者が同じ概念でない点は留意する必要がある。