トラック運賃引き上げへ多重下請け規制強まる
~改正物流二法2025年4月1日に一部施行 (2)~
2030年度トラック輸送力は最大34%不足1すると試算されているが、その一因にトラック運送事業者の運賃交渉力が弱く、運賃が伸びないため、運転手が低賃金となっていることがある。また、トラック運送事業者は荷物需要の波動や多様な輸送ニーズに応えるため、運送の一部を他のトラック運送事業者に下請けに出すことがある。この下請けが多重構造となり、実際に運送を行っている事業者が受け取る運賃が少なくなっているとも考えられている。
2025年4月1日から施行される改正貨物自動車運送事業法では、この点を是正するため、最初に運送を受ける貨物自動車運送事業者を元請運送事業者2とし、実運送体制管理簿の作成を義務付ける。また、契約等により下請けを2次までに制限等することや、実運送事業者が適正な運賃を受取れるよう荷主と運賃交渉を行うことも義務付ける。
さらに、年間100万トン以上を下請けに出す運送事業者は、特別貨物自動車運送事業者に指定され、運送利用管理者の選任、運送利用管理規程の整備が求められる。
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また、真荷主は実運送体制管理簿の閲覧を求めることができ、実運送事業者を知ることができる。こうした措置を実行するため、運送事業者間では元請運送事業者情報や実運送事業者情報等の通知が義務付けられる。
ただし、実運送体制を把握することは、実は2024年6月1日に改正施行された貨物自動車標準運送約款(以下「標準運送約款」)でも定められている。標準運送約款では、貨物を下請けに出した場合、荷主からその管理に係る手数料等として利用運送手数料を収受できるが、収受する条件として、運送事業者は事前に荷主に対して貨物を委託に出すことと委託先を通知することになっている。
2025年4月1日からは標準運送約款による委託先の通知と、貨物自動車運送事業法による実運送体制管理に関する通知及び記録の両方を行う必要があるため、注意が必要だ
その他、2025年4月1日からは運送契約の書面交付も義務化される。貨物自動車運送事業者と真荷主は相互に、運送役務の内容・対価、運送契約に荷役作業・附帯業務等が含まれる場合にはその内容・対価、その他高速道路利用料・燃料サーチャージ等の特別に生ずる費用に係る料金、契約の当事者の氏名・名称及び住所、運賃・料金の支払方法、書面を交付した年月日を記した書面を交付しなければならない。また、貨物自動車運送事業者は運送を下請けに出す場合、下請け先に同様の内容を記載した書面を交付しなければならない。
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契約の書面交付、実運送体制管理簿に関する通知漏れや作成漏れ、保存漏れは行政処分の対象となる予定だ。実運送体制管理簿の作成や、契約の書面交付は、電子メール本文での通知や、配車表への手書きの追記等でもよいと認められている3が、頻繁に下請けに出す場合、記録漏れや真荷主への対応、誤って記録を廃棄してしまうリスクを考えれば現実的にはシステム化が必要であろう。

改正貨物自動車運送事業法では下請け階層を制限することで、実運送を担う運送事業者が収受する運賃が減額されることを防ぐ。荷主も実運送会社が通知されることで、再委託先との直接契約に切り替える動きが出る可能性がある。一方で、小規模運送事業者にとっては、実運送体制管理簿の作成や委託先情報の通知といった業務を確実に履行し、かつ荷主の荷物需要の波動や多様な輸送に応えることは難しい。
また、荷主にとっても契約先が増えすぎることは、管理の手間や運送品質のばらつきの精査、運送事故時の対応等の取引コストが上昇するため、必ずしも望ましいとは限らない。
今後は、二次下請けまでに下請け階層を簡略化し、手数料を削減することが重要にはなるが、その中で、管理能力や営業力の高い運送事業者が元請運送事業者となるだろう。一方で、営業や管理を元請運送事業者に任せることで実運送体制管理等の管理コストを抑え実運送に専念したい運送事業者が一次下請け、二次下請けとなっていくことが考えられる。
- 国土交通省・農林水産省・経済産業省 第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会(2022年11月11日) 資料1株式会社NX総合研究所「「物流の2024年問題」の影響について(2)」p.10
- 改正貨物自動車運送事業法では、最初に運送を受ける貨物自動車運送事業者を元請運送事業者、元請運送事業者と契約を結ぶ事業者を真荷主としている。従って、真荷主には、荷主のほかに、荷主から荷物を受けて元請運送事業者に荷物の運送を依頼する貨物利用運送事業者が含まれる。
- 詳細及び最新の政省令・Q&A等の情報については、国土交通省webサイト「改正貨物自動車運送事業法(令和7年4月1日施行)について」を参照。
- 国土交通省物流・自動車局(2024年12月19日)「自動車運送事業者に対する行政処分等の基準の改正について」。なお、最新の行政処分等の基準は国土交通省webサイト「自動車総合安全情報 行政処分の基準」を参照。