ワーク・エコノミックグロース

従業員体験価値向上は難しくない!?
~承認欲求を満たすことが効果的~

主任研究員 久井 環

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従業員に対する承認(Recognition)の重要性に関するレポート→リンク
従業員体験価値(Employee Experience、EX)に関するレポート→リンク
EX向上の好事例に関するレポート→リンク

米国の労働市場は、働く人の半数が離職を志望している危機的状況にある1。従業員の士気を高め、生産性の高い職場環境を整備することは、企業にとって常に対峙すべき大きな課題である。現在、ミレニアル世代の台頭などにより、職場に求めるものの多様化が進んでいる。例えば、給与など金銭的な満足度のみならず、キャリアップなどの成長機会、心身の健康、働きながらワクワク感や充実感が得られることなど、非金銭的な満足度も求められるようになった2。Gallupは、職場における目下の課題解決に期待される手段のひとつに、Employee Experience(従業員体験価値、EX)、つまり、職場におけるさまざまな従業員体験の価値向上を挙げている3

いざ、EX向上を謳われても、何をしていいかと戸惑ってしまう。居心地が良くスタイリッシュな職場環境を目指した大がかりなオフィスのリフォーム、あらゆる福利厚生、手当の充実化など、コストをかけた対応は、すべての企業ができるわけでないだろう。

Gallupは、もっと身近なところに、EX向上に繋がる取組みがあるという。それは、上司や同僚による「Recognition(承認)」だ4。Recognitionをより質の高いものにするための5つの心得が示されている≪図表≫。具体的には、仕事でうまくいったことがあれば褒める、そして具体的に何がうまくいった要因だったかを丁寧にフィードバックする、プライベートなことについても一緒に喜んだり悲しんだりする。これならば、コストを掛けずに、上司や同僚の心がけひとつで、今日からでも始められる。

誰しも承認されたり、褒められたりすると、嬉しい気持ちになるだろう。承認欲求とは、誰にでもある自然で満たされたい欲求であるからだ5。これらの心得を日々実践することで、質の高いRecognitionが上司や同僚間で定着し、一人ひとりが組織において居場所を感じる「体験」、周囲によって自分は認められていると実感する「体験」を積み重ねることができるという。 

職場におけるRecognitionの効果はすでに認められている。米国で2024年4月に4,439人の従業員を対象にアンケートした結果、上司や同僚から仕事に関する建設的なフィードバックが得られると、6割近い従業員が「やる気を失わず、働き続けることができる」と回答している6。職場内で相互にフィードバックを交わすことで、心理的安全で生産的な職場になり、自身の発展や成長を実感(体験)することができるとされる7

また、Recognitionが離職に与える影響を調べるため、2022年から2年間、3,447名の離職状況について追跡調査が実施された。質の高いRecognitionを経験した従業員(well-recognized employees)の2年以内の離職は、それを経験していない従業員と比較して45%少なかった8

離職に伴う管理職の補完にはその年収の2倍、技術職であればその0.8倍、一般職員であればその0.4倍が、それぞれ採用コストとして必要といわれる。日々の心がけとしてのRecognitionは、企業にとっても従業員にとっても望まない離職に歯止めをかける効果が期待できる9

今一度、一人ひとりが周囲に対し良いRecognitionができているか、振り返ってみて欲しい。職場で存在を認められ、居場所がある感覚を得る「体験」を心地良いと感じるのは、皆同じである。上司として、同僚として、周囲に対する心がけひとつでRecognitionの輪を広げていくことで、EX向上は実現するはずだ。

  • Gallup <https://www.gallup.com/467702/indicator-employee-retention-attraction.aspx>
  • 現在、ミレニアル世代を中心とした情報に感度が高い米国の従業員は、企業に対し給与以外の満足度、例えば、成長機会や心身の健康を求めるようになっている。詳細は、こちらのレポートを参照→リンク
  • Gallup, “The Human-Centered Workplace:Building Organizational Cultures That Thrive”, Sep. 21, 2024
    なお、従業員体験とは、採用、成長、離職など従業員として体験する一連の出来事を指す。これらの体験から得られる価値を、従業員体験価値(EX)と呼ぶ。
  • 前掲注3
  • 心理学用語<https://psychologist.x0.com/terms/131.html>
    心理学者マズローが唱えた「欲求の5段階説」によると、人間には、①生理的欲求(生命維持のための根源的な欲求)、②安全欲求(生命を脅かすものから回避する欲求)、③社会的欲求(社会における自分の居場所を願う欲求)、④承認欲求(周囲から自分を認められたい欲求)、⑤自己実現欲求(自分の能力や可能性を活かして成長したい欲求)の5つの欲求がある。
  • 前掲注3
    原文は、”less likely to be burned out”とある。なお、”burned out”は、直訳では「燃え尽き」。
  • 前掲注3
  • 前掲注3
    質の高いRecognitionを経験した従業員(well-recognized employees)とは、Gallupが示す5つの心得のうち、最低4つが実践されたRecognitionを受けた従業員を指す。
  • 前掲注3
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