企画・公共政策シティ・モビリティ

不動産IDに郵便配達情報を活用する議論とその可能性

主任研究員 宮本 万理子、上級研究員 水上 義宣

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 我が国の不動産には、土地・建物に統一した情報整備がされておらず、不動産流通の網羅的把握ができないといった課題がある。このため、土地・建物いずれも統一した番号(ID)を付定し、デジタル化した管理に移行することが望ましい。しかし、既存の不動産登記情報(不動産登記受付帳、所有者事項、全部事項等)では、住所表記のゆれ(仮名、ひらがな)があったり、住所と地番との紐づけなかったりするため、不動産が書類上同一物件か否かが分からない(参考文献1)。また、敷地内に複数の建物が建っている場合の取扱いが難しいことや、公共施設に関する建物情報は登記対象外であることも課題である(参考文献2)。国は2023年に「不動産ID官民連携協議会」を設立し、全国の不動産に番号を付与する「不動産ID」の整備を検討してきている。同協議会では、日本郵便が保有する配達先に関する情報を活用することで、一意のIDを付与することを検討している。

(出典)国土交通省

 しかし、日本郵便保有の情報は歴史的に取得されてきた情報のため、すべてのデータについて個別の利用同意等を得ることは困難なほか、機微な個人情報や通信の秘密にかかわる情報が含まれるため、情報保護の観点から慎重な検討が必要となっている(参考文献3)。また、日本郵政グループは民間企業でもあり、郵政グループ資産の公的利用が競合企業の利益とならないように配慮する必要もある。国は郵便局データ活用アドバイザリーボードを設置して郵便情報の活用について議論しており、郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドラインの解説の改正案を2025年1月20日に決定した。同ガイドラインでは、個人の同意を得ない個人情報の提供ができる場合を、法令に基づく場合等とし、かつ郵便法に定める信書の秘密を遵守することが必要であるとしている(参考文献4)。具体的には、空き家対策のような公益目的に資する個人情報提供に関して、提供要件などについて丁寧に議論を進め、ガイドラインや同解説の反映が進められている(参考文献5)。

 また、連携協議会では2023年度に不動産IDと日本郵便データの連携に関する実証実験を行っている(参考文献6)。ここでは、不動産ID導入により民間企業のビジネスにも活用できるよう以下のような検証を進めている。

①損害保険会社の事例
 損保ジャパンでは、不動産IDを活用した契約管理適正化・保険料算出の迅速化の可能性について2023年度に以下のような検証を行っている(参考文献7) 。
 
検証1:保険契約の適正管理
 マンション管理業協会と損保ジャパンの双方が保有するデータを連携し、マンションごとに双方向から総合的な評価を行い、マンションの市場価値向上に寄与するサービス提供することを検討している。具体的には、マンション管理適正評価制度の評価結果データと、不動産ID、保険契約・保険金支払データとの連携可能性について検証している。
 
検証2:保険料算出の迅速化
 マンション管理業協会・野村不動産・損保ジャパンの各社が保有するデータを連携し、保険料算出に必要なデータ(建築年月日・付属設備情報等)を連携することで保険料算出が迅速化する可能性を検証している。
 
 上記はいずれも不動産IDにより、各社の課題である情報連携を可能にすることを目指した実証実験である。

(出典)損害保険ジャパン株式会社

②物流業界の事例
 ヤマト運輸では、仮名やひらがななどの表記揺れ住所により発生する、正確な配達先の調査特定などの業務負担に対して、不動産ID活用によりどの程度軽減できるのかの検証を行っている(参考文献8)。また、宅急便サービスにおいて不動産IDを活用した場合の配達可否の検証も行っている。

(出典)ヤマト運輸株式会社

 上記の実証実験に見られるように、不動産IDの整備に日本郵便の配達先に関する情報を活用することはさまざまな可能性を秘めている。一方で、個人情報や通信の秘密の保護の観点からは引き続き慎重な議論と活用に向けた法制度の整備、厳格な利用要件の設定が必要と思われ、今後の動向を注視していきたい。

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