フューチャー・ビジョン・ラボ

デジタルヘルス:メガネ型デバイスやウェアラブルロボットが花盛り/ 健康モニタリングは遠隔医療用デバイスの展示が増加―CES2025視察報告(2)―

上級研究員 内田 真穂

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CES2025視察報告の第2回目は、健康・医療分野にデジタル技術を活用する「デジタルヘルス」の最新トレンドを取り上げる

エイジテックに脚光

AARP(全米退職者協会)のブース(出典=当社撮影。以下、出典の記載のないものは同じ)

デジタルヘルスは、主催者であるCTA(全米民生技術協会)が注目するテーマの一つであったが、今年は特にエイジテック*の展示が際立っていた。デジタルヘルスの展示ホールには、アメリカの高齢者団体AARP(全米退職者協会)の大きなブースがあり、「Aging in Place(自分の住み慣れた住居や地域で暮らし続ける)」をテーマに、視覚や聴覚補助、メンタルサポート、デジタルを活用した遺言の残し方など、さまざまなエイジテック製品が展示されていた。

*エイジテック…高齢者の健康や生活を改善するテクノロジー

高齢者や難聴者をサポート、字幕表示するメガネや補聴器メガネが登場

Xander の「XanderGlasses Connect」

そのエイジテックエリアでは、AARPのブースの一角に展示されていた米新興企業XanderのARグラス「XanderGlasses Connect」に目を惹かれた。高齢者や難聴者向けに開発されたこのメガネは、AIが相手の会話を即座にテキスト化し、レンズ越しに字幕を表示する。展示品は英語限定だったが、26言語に対応可能で、環境音のキャプション表示もできるという。実際に試してみて、高齢者や難聴者が日常生活で直面するコミュニケーションの障壁が大きく解消されると感じた。本製品はアクセシビリティ&エイジテック部門でベストオブイノベーションを受賞している。

イタリアの光学機器メーカーEssilor Luxotticaは、音を聞こえやすくするスマートグラス「Nuance Audio」を発表した。フレームに6つのマイクとスピーカーを内蔵し、目の前で見ている相手の声だけを聞きとりやすくするのが特徴で、聴覚に課題のある人をサポートする。フレームを購入してメガネ屋に持って行けば、度付きレンズを入れてもらうこともできる。どの程度クリアに聞こえるかにより評価は変わるだろうが、補聴器とメガネの一体化は補聴器業界にもインパクトを与えそうだ。

今年のCESでは、このようなARグラスやスマートグラスといったメガネ型デバイスの展示が目立っていた。昨年まではXRエリアでの展示が中心だったが、今年はエイジテックエリアやスタートアップエリアでの展示が増え、AIを搭載したメガネの新たな可能性を感じさせた。

AIを搭載したウェアラブルロボット

身体をサポートするウェアラブルロボットの展示も昨年より増えた印象だ。韓国Huroticsが展示した リハビリ用ウェアラブルロボット 「H-MEDI」は、92%の精度で病気の予後を予測し、歩行パターンを分析して治療を見直す機能を提供する。この製品はアクセシビリティ&エイジテック部門とロボティクス部門の2部門でイノベーションアワードを受賞した。

韓国WIRoboticsの「WIM」の歩行支援ロボットは、実際に装着して体験することができた。歩行補助モードと運動モードが選べるのが特徴で、歩行補助モードでは、AIが体の動きを認識して脚を持ち上げ、少ない力で楽に歩くことができた。運動モードでは逆にロボットが脚に圧力をかけるので、自転車で坂道を登るときのような足の重さを感じた。

ロボティクス部門でベストオブイノベーションを受賞したのは、中国HyperShellの歩行・走行強化外骨格「Hypershell Carbon X」だ。AIが装着者の動きを捉え、10種類の支援モードを瞬時に切り替えて身体的負担を軽減する。こちらは、長距離歩行や山登りなどでの使用を想定しているとのことだった。

日本のスタートアップも健闘しており、BionicMのロボット義足「BioLeg」がアクセシビリティ&エイジテック部門でベストオブイノベーションを受賞している。これらのウェアラブルロボットは、リハビリ用、日常用、運動用と目的は違えど、AIが微細な身体の動きを察知して、デバイスが人間の動きをサポートし、補強してくれる点が共通している

Huroticsのリハビリ用ウェアラブルロボット「H-MEDI」(左)、WIRoboticsの「WIM」(中央)、 HyperShellの 「HyperShell Carbon X」(右)

健康モニタリングは消費者向けと医療向けの境界が曖昧に

デジタルヘルスと言えば、真っ先に思い浮かべるのは健康モニタリングデバイスだろう。体温や心拍などの生体情報をセンシングし、健康状態を可視化するデバイスは今年も多数の展示があった。特に遠隔診断・診療用のデバイスが増え、消費者向け製品と医療ソリューションの境界線がますます曖昧になっていると感じた

例えばフランスの健康電子機器メーカーWithingsの血圧計「BPMpro2k」は、スマホを通じてデータが即座に臨床用プラットフォームと同期され、医師が患者のデータにアクセスできる仕組みを提供する。スマート生地を開発するカナダのMyantが展示したブラジャー型心電計「Skiin」は、同国で医療機器として承認を受けており、心臓病患者のモニタリングが可能だ。いずれの製品もデジタルヘルス部門のイノベーションアワードを受賞している。

検知可能な生体情報の種類も拡大している。女性の健康関連製品を開発するカナダEIi Healthは唾液からホルモンレベルを測定するデバイス「Hormometer」を展示し、デジタルヘルス部門のベストオブイノベーションを受賞。唾液を含んだカートリッジをスマホのカメラで撮影し、AIがその色をもとに分析。コルチゾール(ストレスホルモン)やプロゲステロン(妊娠・月経・更年期などに関連するホルモン)を20分以内に検出し、結果に基づく洞察を提供する。自宅で検査可能で、手軽なのも特徴だ。

Withingsの血圧計「BPMpro2k」 (左)、Myantの「Skiin」と実際に着ていた説明員の心電波形(中)、Eli Healthの「Hormometer」(右)
(出典)左:CES公式サイト、中:当社撮影、右:CES公式動画よりキャプチャ

未来を感じさせるスマートミラー

Withingsの「OMNIA」

自宅でセルフ診断という観点では、イノベーションアワードを受賞した台湾のFaceHeartのAI内蔵ミラー「FaceHeart Cardio Mirror」が秀逸だ。鏡の前に45秒間立てば90%の精度で心房細動や心不全を検出し、その他のバイタルサインも同時に測定できる。 

Withingsはスマートミラー「Omnia」のコンセプトモデルを発表。こちらはより多くの生体情報をセンシングする。鏡の前に立つだけで、心拍数・心電図・血管年齢・血圧・消費カロリー・内臓脂肪・睡眠の質などのデータを測定し、同社の既存製品(スマートウォッチなど)とも連携可能らしい。また、収集したデータの医師との共有や医療専門家とのオンライン相談も想定されているようだ。スマートホームの浸透とともに、近い将来、一家に一台、AI看護師が常駐する時代が到来しそうだ。

視力検査や視力補強の先端技術も

eyebotの自動視力検査端末

次に紹介するのは視力に関する先端技術だ。米新興企業EyebotはAIを搭載した視力検査端末を展示。ATMのような端末に近づきボタンを押すとその人の目をスキャンし、わずか90秒でメガネやコンタクトレンズの処方箋を作成する。Eyebotのブースでは、実際に視力検査をしてみようとする人たちで行列ができていた。

韓国の新興企業CELLiCoが展示したARグラス「EyeCane」は、加齢黄斑変性症による視力低下を補正する。4Kカメラとモバイルアプリを用いて映像をキャプチャし、リアルタイムで視覚を回復する画期的なメガネで、XR部門でイノベーションアワードを受賞している。 

自動で温湿度を調節するジャケット

Myantの「Osmotex」

少し変わったところでは、Myantが展示した温湿度コントロールジャケット「Osmotex」が注目を集めていた。今年新設された「ファッションテック」部門でのベストオブイノベーションを受賞したこの製品には、自己乾燥型テキスタイルが織り込まれており、電力を用いて液体を移動させる「電気浸透」の技術が採用されている。これにより従来の防水通気性生地に比べ2.5~50倍という迅速な湿度調整が可能になった。同社はジャケットを販売するのではなく、技術をアパレルメーカー等に提供して製品化したい考えで、アウトドア、医療、軍用などの用途を想定しているようだ。

スマートリングの進化

スマートリングの展示ブース。後ろの壁面に「世界初の非侵襲の糖尿病リスク診断」との表記がある。(出典)CES公式動画よりキャプチャ

CES2025では「スマートリング」の展示ブースも目に付いた。事実、新たにこの分野に参入した企業が多いらしく、心拍数、睡眠活動、血中酸素濃度を測定する指輪や糖尿病リスク診断を行う指輪、心電計と心房細動検出機能を搭載した指輪などがあった。スマートリングはディスプレイがないため、スマートウォッチと比べてバッテリー寿命が比較的長いのが特徴とされる。今後はデザイン性も普及のカギになるかもしれない。スマートウォッチのように市場を獲得できるか注目だ。

健康維持・増進の基本は運動

AARP主催によるピックルボールのデモンストレーション (出典)CES2025 Tech Trends Report

最後に紹介するのは、エイジテックエリアでデモンストレーションが行われていた「ピックルボール」だ。バドミントンコートと同じくらいの広さのコートで、ネットを挟んでプラスチックボールを打ち合うテニスに似たスポーツで、筆者はこの競技を初めて知った。米国で人気らしく、高齢者の健康増進のためのスポーツとしてAgeTech Collaborative(AARP)が主催していた。テクノロジーがどれだけ進化しても、健康維持および増進には運動が基本であることを再認識させられた

次回は、CES2025におけるモビリティ領域の最新動向について報告する。

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