企画・公共政策

北海道、ヒグマ管理計画を改定
―人とヒグマの共存に向けた新たな取組―

主任研究員 尾形 和哉

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北海道は2024年12月、「北海道ヒグマ管理計画(第2期)」を改定した。ゾーニング管理や個体数管理などの新たな方策を導入することで、人とヒグマの軋轢を低減することが狙いだ。

近年、全国的にクマ類(ヒグマ、ツキノワグマ)による人身被害が相次いでいる。特に2023年度は、全国での人身被害件数が198件と過去15年で最多を記録しており(図表1)、東北では過去最多の人身被害が発生し、9月から11月にかけて大きく増加した(図表2)。

一方北海道においても、ヒグマに関する通報が増加傾向にある。道内市町村が把握している通報件数は2008~2010年度の平均で年間2,415件であったが、2020~2022年度の平均で年間4,035件と約1.7倍に増加しているほか、北海道警察に寄せられた通報件数は、2019年は1,825件であったところ、2023年は4,055 件と過去5年間で最多となっている1

クマ類の主な出没要因としては、人への警戒心の低下や緩衝地帯の減少等が挙げられるが(図表3)、北海道は今回の「北海道ヒグマ管理計画(第2期)」の改定において、人とヒグマとの空間的なすみ分けを図る「ゾーニング管理」をはじめて導入することとしている。

これは、ヒグマを保護するゾーンを「コア生息地」、人間活動を優先するゾーンを「防除地域・排除地域」、その間に緩衝地帯とする「緩衝帯」といったゾーンを設定するもので、特に「防除地域・排除地域」「緩衝帯」については、地域の状況に応じて出没や防除の対応を進める必要があることから、市町村を通じて設定を推進する、とされている2

北海道は市町村でのゾーニング管理導入を後押しするため、別途ガイドラインを作成するとしている。2024年12月にはゾーニング管理のモデル地域を3市町選定しており(七飯町、名寄市、滝上町)、これらの地域で年度内にゾーニング管理計画を策定することで、他の市町村が活用できるガイドラインの作成を進める方針だ3。このほか、社会問題になっていなかった時期の個体数を目指す「個体数管理」や、ヒグマの生息実態やあつれきのデータを蓄積していくための「モニタリングの充実」、更には「専門人材の育成・確保」なども今回の改定に盛り込まれている。

加えて、鳥獣保護管理法の改正も控えている。現状は、市街地にクマ類が出没した場合、警察官の命令により捕獲者が銃猟を行う、または、警察官が不在の際には捕獲者自らが緊急性を判断するなど応急的に対応してきた。現在環境省が検討している改正案では、「①人身被害の恐れが現に生じている」、「②建物内にクマが入り込んでいる」、「③住宅街で箱わなでクマを捕獲した」場合のいずれかに該当する場合は捕獲者による銃猟の実施が可能となる見込みだ4。これによってより迅速な判断が可能になる一方で、鳥獣被害対策における市町村の役割はますます大きくなっていくだろう。こうしたことから、全国市長会は環境省に対し、銃猟による損失補償の考え方の整理や、不足する捕獲の担い手不足に対する人材確保等について意見を提出している5

市町村と猟友会との信頼関係の構築は必須であることに加え、現場で対応する市町村職員の専門性の向上も一層重要となるだろう。今後は市町村や都道府県にガバメントハンター6を設置するなど、専門人材の確保について検討が必要だ。

野生鳥獣は生物多様性の重要な構成要素の一つである。人口減少が進む中で、ヒグマなどの野生鳥獣との軋轢を減らしながら、人と自然が共存できる環境を構築するためには、まちづくりの視点からも議論を深めていく必要があるだろう。

  • 北海道 令和5年度第3回北海道ヒグマ保護管理検討会「被害状況等について」(2024.3.25)
  • 北海道「北海道ヒグマ管理計画(第2期)改定 本文」(2024.12.26)
  • 北海道「北海道ヒグマゾーニング管理推進モデル事業の実施地域について」(2024.12.19)
  • 環境省 鳥獣保護管理法第38条に関する検討会「鳥獣保護管理法第38条の改正に関する対応方針」(2024.7.8)
  • 全国市長会「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律案に関する意見」(2024.10.29)
  • 野生鳥獣対策を専門とする「鳥獣専門員」を指す。長野県小諸市では2013年4月より正式に地方上級公務員として正規雇用されている。
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