見かけ以上に深刻な食料価格の高騰

上級研究員 小池 理人

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 食料価格が上昇している。11月29日に公表された東京都区部の消費者物価指数では、食料価格が前年比+5.1%(10月:同+3.5%)と、伸び率が大きく拡大した(図表1)。東京都区部の消費者物価指数は全国に先行する指標であり、食料価格の伸び率は既にピークを過ぎたものの、価格上昇の動きは値上げラッシュとなった10月以降も継続していることが示される結果となった。食料品は購入頻度が高いことから、消費者の体感物価1との連動性が高く、物価高による消費者の負担感が読み取れる。
 しかし、足もとでは、食料価格の伸び率がピークを過ぎる一方で、消費者の体感物価は高止まりが続いている(図表2)。両者に乖離が生じる理由としては、長きに渡って物価が上昇しなかったことにより、消費者の物価の基準値が物価上昇前の2019年にアンカーされていることが挙げられる2。図表2で示した食料価格の前年比の伸び率について、2020年以降を2019年比に修正したグラフを作成すると、食料価格の伸び率と消費者の体感物価がかなり近い動きとなっており、消費者の体感物価と食料価格の相関関係が強いことが分かる(図表3)。同様の条件によって相関係数を2006年6月~2024年9月3で算出すると、体感物価との相関係数は、食料価格で0.90となっており、消費者物価指数(総合)の0.86、消費者物価指数(帰属家賃除く総合)の0.85、消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の0.86と比較しても高い。体感物価と食料価格の相関が例外的に低かったのは、原油価格が一時1バレル140ドルを超えるような原油高の時期であり、こうした時期を除いた2009年1月~2024年9月で算出すると相関係数は0.95と更に高い数値となる。
 食料価格の2019年比での伸び率が消費者の体感物価を規定するのであれば、前年比での伸び率鈍化とは裏腹に、消費者の体感ベースでの物価高による負担感は増していくことになる。2019年比での食料価格の伸び率は上昇傾向での推移が続いており、先行きも伸び率が拡大していくことが見込まれる。帝国データバンクの調査4によると、2025年の飲食料品値上げは3,933品目と、前年同時期の1,596品目を大幅に上回っている。前年比での伸び率が鈍化したとしても、物価上昇前の2019年比での食品価格は今後も伸びを高めていく可能性が高い。
 消費者物価指数を巡っての話題の中心は、賃金のサービス価格への転嫁状況になっており、物価高による消費への影響というテーマは以前と比較して影を潜めつつある。しかし、2019年比という視点でみると、消費者の体感物価への影響は今後も強まっていくことが想定される。前年比での見かけ以上に消費者心理への悪化が深刻である点には注意を払う必要があるだろう。

  • 本稿では、日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」における「消費者の回答した1年前からの物価変化率(平均値)」を「体感物価」とする
  • 2024年10月8日「消費者は物価を前年比で見ていない~2019年にアンカーされる消費者の物価基準~」を参照
  • 日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」(郵送調査法)の取得可能期間
  • 2024年11月29日「定期調査:「食品主要195社」価格改定動向調査‐2024年12月/2025年」
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