メルセデス、ホンダから自動運転レベル3の次世代車発表
ーメルセデスは高速道路で時速95km実現へー
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自動運転レベル3:乗用車・マイカーの自動運転の現在地 ~ホンダ、メルセデス、BMW~(2024年7月2日発行)
<1.メルセデス、ホンダ、レベル3搭載の次世代車発売へ>
乗用車・マイカーの自動運転領域で、次世代車の発売情報が出始めた。
メルセデスは、2025年初頭、自動運転レベル3のオプション機能である「Drive Pilot」の新たなバージョンをドイツにおいて発売すると発表した※1。SクラスとEQSで選択できる現行バージョンは、高速道路の渋滞時に時速60km以下で利用することしかできなかった。新バージョンでは、渋滞中と呼べるような状況でなくとも、前方に追随できる車両を認識できれば、右車線において時速95㎞までスピードを出すことが可能になる(注:日本と反対で、ドイツは右側通行のため、左車線が追い越し車線)。既にDrive Pilotを利用中の販売済みの車両に対しては、無線によるアップデート(OTA、Over The Air)が実施されることになっており、新バージョンの価格は据え置くと見られる。
ホンダも、2021年3月に100台限定で市販したレジェンド以来、久々にレベル3機能を搭載した新型車を発売する。2026年からグローバル市場への投入予定の「Honda 0(ゼロ)シリーズ」にレベル3機能を搭載し、将来に向けてはOTAによるアップデートにも対応していく※2。機能の詳細や価格などはオープンになっていないが、発表の中には「より多くのお客様の手が届く自動運転車を提供する」とあり、レジェンドの1,100万円より引き下げるのかが注目される。もっとも、日本市場ではなく海外市場で投入される場合には、現地でのメルセデスやBMWのレベル3車両の価格や、レベル2だがスマートカーで訴求しているテスラの価格などがベンチマークになるだろう。
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<2.“自動運転”という言葉の定義のおさらい>
機能の詳細が明らかになっていないことも影響してか、ホンダに関する各種報道で自動運転機能の説明が分かりにくいものが散見されるので、少し筆者なりの補足をしておきたい:
■「レベル3」のクルマには、「レベル2」の機能も複数搭載されているのが一般的である。
■「レベル2」の機能は、車線を維持しながら前方車両に追随するなど、テスラのほか、大手メーカーや新興中国メーカーでも近年高度化が著しい。一般道でも使用できる機能があるが、あくまでもレベル2は「安全運転を支援するシステム」という位置づけであり、運転時の責任はすべて人間のドライバーにある。そのため、スマートフォン操作などをすれば、脇見運転で道交法違反になる。
■「レベル3以上」が真の自動運転機能である。
したがって、「レベル3」になると、自動運転機能を利用できるODD(運行設計領域)においては、システムがすべての運転操作を担うため、人間のドライバーは前方注視義務から解放される。スマートフォンを操作や、車内の液晶で動画を楽しんでいても、道交法違反にはならない。この点がレベル2との大きな違いである。ホンダが「アイズオフ(目を逸らしても問題ない)」と呼んでいるのはレベル3の機能のことである。
ただし、レベル3はシステムが対応できない場面になると、人間のドライバーに交替を要求するため、ドライバーはいつでも運転動作に戻れる状態で搭乗している必要がある。そのため、睡眠や飲酒は禁止である。また、自動運転機能を作動させているあいだに、車内であまりにもゲームに熱中していたといった状況も違反を問われる可能性がある。
また、レベル3のODDについては、国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)で国際協調の議論が進められており、利用場面は当面は高速道路上に限られる。この点もレベル2との違いである。
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<3.ドイツのアウトバーンにおける「時速95km」の威力とは?>
さて、本日時点で公表されている中では、メルセデスの時速95kmがレベル3の中では世界最速となる。ドイツのアウトバーンにおいて、その威力、効果はいかほどのものなのだろうか。
一部区間を除き速度無制限で有名なアウトバーンだが、実は、推奨速度として「時速130km」という目安が存在する※3。この推奨速度は、道路状況や天候が良好な状況下での速度であって、悪天候時などは安全のために抑制することが推奨されている。また、推奨速度を超えて走行しているときに事故を起こした場合、速度超過が無ければ事故の発生は防げたと判断されると、自車側の過失割合が2割以上認定されるのが一般的となっている※3。
そのため、最も人口が多いノルトライン・ヴェストファーレン州における通行データに基づく調査によれば、1日を通じてドライバーの約77%が自主的に時速130km未満で走行しており、混雑時間帯になると80%以上が時速130km未満で走行しているという※4。ごく一部、ハイスピードで走行する車両は存在するものの(時速160km超は、1日を通じて全体の2%未満)、ドイツのアウトバーンでは推奨速度が尊重されていることが分かる。
こうした状況下で、朝夕の通勤時の混雑はドイツのドライバーを悩ませている。環境政策の観点から、公共交通や自転車の利用を促進しているドイツだが、通勤における自動車利用は高止まりしている。2024年3月のAllianzダイレクトの調査によれば、全年齢で59.9%、最も自動車通勤率が高い35~44歳では、68.09%となっている※5。
ADAC(ドイツ自動車連盟)によれば、テレワークからオフィスへの通勤が再開され、2023年にはアウトバーンで、504,000 件の交通渋滞が発生し、総渋滞距離は 877,000km、総渋滞時間は42万7000時間に達した※6。平日の時間帯では朝6~9時、曜日では水曜・木曜が特に深刻だ。
インフラの老朽化に伴う国内各地の道路工事の発生も2010年代以降になってドイツの人々が口にする渋滞の要因である。2023年にはアウトバーン上で800~1,500カ所の工事が同時に行われていた。今後も数年以内に4,000以上の橋で交換工事が必要であるなど※6、インフラ改修のための工事は続き、オフィス通勤の回復と相まって、渋滞の解消は見込めない状況にある。
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<4.ライフスタイルに合致するエリアではレベル3市場誕生の可能性 ―通勤時間に新たな価値―>
アウトバーンでの渋滞解消が見通せないドイツにおいては、通勤時に車内で書類に目を通したり、業務メールをチェックしたりと、レベル3による一時的な運転行為からの解放にメリットが見いだせる状況になってきている。Sクラスに手が届くアッパーミドル層であれば、時速95kmまでの運転を任せられるようになったDrive Pilotのオプション追加に魅力を感じるのではないだろうか。車内での過ごし方の多様化に向けて、メルセデスでは、ソニー・ピクチャーズの車内向け動画エンタテインメントサービス「RIDEVU」の導入も始める※7。
コロナ禍を経てテレワークの利用も一定定着したものの、オフィス出勤への反動は各地で起きている。メルセデスは、現行バージョンのDrive Pilotを米国の一部の州で販売しているが、自動車通勤の割合が高い北米でも時速95kmが実現できれば、ドイツと同様にニーズが高まってくる可能性がある。
この点、日本人のライフスタイルは異なる。まず、三大都市圏では電車通勤の割合が高い。自動車通勤の割合が高い地方都市部でも、利用される道路は一般道が中心であり、一般道の混雑を解消するために並走する高速道路の割引が導入されているような状況である※8。レベル3のマイカーに対する消費者の潜在ニーズはドイツ・北米とは異なると考えられる。
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※注1Mercedes-Benz Group “DRIVE PILOT Support speed of up to 95 km/h on German motorways.”, September 23, 2024
※注2 Honda “Honda 0 Tech Meeting 2024でHonda 0シリーズに搭載予定の次世代技術を公開”、2024年10月9日
※注3 ADAC “Richtgeschwindigkeit: Wann sie gilt und was sie bedeutet”, April 18, 2024
※注4 Puls, Thomas / Wendt, Jan, 2021, Verkehr auf der Autobahn. Schneller als 130 – Regel oder Ausnahme?, IW-Kurzbericht, Nr. 61,
※注5 https://www.allianzdirect.de/kfz-versicherung/pendeln-zur-arbeit-statistiken/ (Visited Oct. 10, 2024)
※注6 ADAC “ADAC Staubilanz 2023: Deutschland-Ticket reduziert Staus nicht”, Feb. 6, 2024
※注7 Mercedes-Benz Group “Mercedes-Benz brings movie magic into the car with the RIDEVU advanced entertainment service by Sony Pictures Entertainment” , September 23, 2024
※注8 国土交通省「高速道路料金に関する最近の動きについて」(2023年2月16日社会資本整備審議会 道路分科会 第53回国土幹線道路部会)