世界人口推計から日本の多死社会と土地、住宅問題を捉える
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国連が7月11日に世界の人口推計(2024)[1]を公表した。ここでは、世界の人口が2080年代に約103億人のピークに達した後、人口減に転じることが示されている。一方で、例えば、日本や、ドイツ・イタリア等のEU諸国では、2010年代に人口減を迎えた。中国や韓国等の東アジアでも、2020年代に入って人口減に転じているが、短期間で減少ペースが加速することが世界的に注視されている。
人口減少の主因は、死亡者数が出生者数を上回る状況が常態化することである。このような社会を「多死社会」と言い、日本は高齢・少子化を背景とした多死社会が特徴である。≪図表1、左≫は、世界の多死社会の傾向を見ている。EUでは1990年代を境に多死社会へと突入し、東アジアでは2020年代以降に顕在化している。これに対して日本は≪図表1、右≫が示すように、2005年以降に多死社会へと転じ、2100年にかけてこの傾向が続く。
≪図表1≫国連「世界人口推計(2024)」に見る、先進諸国の多死社会の傾向(EU、東アジア(左)、日本(右))
(出典)United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2024). World Population Prospects 2024, Online Edition.
我が国における多死社会の進行は、さまざまな領域に影響を及ぼしている。なかでも、大量の相続の発生が土地、住宅問題に与える影響は大きい。加えて、被相続人である高齢者が増加し、相続人である子世代が少ない状態が定常化することで、相続放棄が懸念される。≪図表2、左≫は、取得財産価額の内訳を見たもので、土地と家屋、構造物を足し合わせると38%程度と最も多い。一方で、相続放棄件数は2005年以降増加傾向にある≪図表2、右≫。親と子の居住地が離れているため、相続した土地・建物に対する子世代の管理負担が大きいこと、子世代が既に自身の住居を持っていることも相続放棄の要因である。
≪図表2≫相続財産価額の内訳(左)と相続放棄件数の推移(右)
(出典)国税庁統計(2022)「相続税」(左)、裁判所(2023)「司法統計」(右)
筆者ら(2024)[2]は、主に高齢単独世帯が保有する住宅が、死後、空き家化する傾向について概説した≪図表3≫。この傾向は全国に共通しているが、地方圏と比較して大都市圏において量的に多い。今後、大都市圏に多く暮らす人々が高齢化することで大量の相続が発生し、同時に、少子化の進展は相続放棄へとつながる。こうした状態は将来20年以上続くことが予想され、大都市圏の土地、住宅問題に極めて深刻な影響を与えると思われる。多死社会において、親から子への土地、住宅の世代間移転の進展に注視していく必要があるだろう。
海外に目を向けると、例えば韓国では首都一極集中に伴う地価の高騰に加えて、多死社会に突入することで、相続の課税対象となるマンションが急増すると言われている。日本の土地、住宅問題は、今後多死社会が加速する東アジア諸国にとっても参考になる事例と言えよう。
≪図表3≫高齢単独世帯と空き家増加数の関係
(注)その他空き家とは、「賃貸の住宅」「売却用の住宅」「二次的住宅」以外の住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期にわたって不在の住宅や建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅
(出典)宮本ら(2024) [2]
- United Nations(2024): World Population Prospects<https://population.un.org/wpp/Publications/> 2024.7.15閲覧
- 宮本万理子・岡田豊・池邊このみ(2024):世帯の小規模化から見た空き家動向、Sompo Institute Plus Report、25-42