【Vol.82】7.キャリアの方向性を見つける機会としての「サードプレイス」 〜楽しさや関心から参加する場としてのスポーツから考える〜

主任研究員 大島 由佳

Ⅰ.はじめに

個人は社会や企業の変化に対応して、キャリアの方向性や必要なスキルの見定めが期待されている。しかし、日本の雇用慣行下でキャリアを積んできた個人にとってそれは容易ではない。そこで本稿では、「サードプレイス」での時間や交流が、キャリアの方向性を見つける機会になる可能性に着目する。

Ⅱ. 働く個人を取り巻く社会環境

産業構造の変化に伴い、アイデア創出ができ、AIやデジタルなどのスキルを持つ人材の重要性が増している。そのような人材を育成しようと企業は従業員のリスキリングに取り組み、成長分野への配置転換を推進する潮流がある。その際、企業・従業員の双方にとって適切な分野のリスキリングと配置転換を実現し、個人が思い描くキャリアを形成できるのが望ましい。しかし、個人が自律的にキャリアを思い描くことが難しい場合も少なくない。

Ⅲ. キャリアの方向性を見つける機会としての「サードプレイス」

サードプレイスとは、家庭(第1の場)でも職場(第2の場)でもない、個人の自由意思で参加し、他者との緩やかな関係を構築する居心地がいい第3の場である。自己理解を深め、自身の価値観を起点に能動的に行動し、協働する他者との人的ネットワークを構築する「越境」先であれば、そのサードプレイスは個人のキャリア自律に資するといえる。特に「テーマ型(目的交流型)」のサードプレイスへの参加は、新たなキャリアを見つけ踏み出すことに繋がるとされる。

Ⅳ. サードプレイスとしてのスポーツ

スポーツの場は、楽しさや遊びという動機や感覚から参加する人が多いと考えられる。他者と共に楽しむ場合も多いことからサードプレイスの一つといえる。加えて近年は社会でスポーツを利活用する動きや産業としての領域拡大があり、スポーツは多様な分野と人が共存し、「越境」やキャリア自律の特徴である「協働する他者との人的ネットワーク」が「弱い紐帯」として生まれやすい。

Ⅴ. むすび

変化に対応したキャリア構築とスキル習得の実現のため、個人は人生のパーパスのほか、キャリアの方向性や必要なスキルを見定める機会が必要であり、サードプレイスはその選択肢になり得る。企業にとっては、リスキリングをはじめとする自社に必要な人材育成に加えて、個人がキャリアの方向性や必要なスキルを自分で見定める方法・機会を持つ後押しも、人的資本の強化に繋がるといえよう。

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