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2025年1月7日から10日にかけ、米ラスベガスで世界最大のテック見本市「CES2025」が開かれた。主催者の全米民生技術協会(CTA)が設定した主要テーマ「AI」「デジタルヘルス」「先進モビリティ」を中心に4500超の企業が出展し、来場者数は14万1000人超と、新型コロナウイルス禍後では最大規模での開催となった。当社では昨年に続きCESを視察し、展示から得られたインサイトをシリーズで紹介する。
2025年1月7日から10日にかけ、米ラスベガスで世界最大のテック見本市「CES2025」が開かれた。主催者の全米民生技術協会(CTA)が設定した主要テーマ「AI」「デジタルヘルス」「先進モビリティ」を中心に4500超の企業が出展し、来場者数は14万1000人超と、新型コロナウイルス禍後では最大規模での開催となった。当社では昨年に続きCESを視察し、展示から得られたインサイトをシリーズで紹介する。
初回は、AIをロボットなど物理的な動作を伴う機械と組み合わせる「フィジカルAI」を取り上げる。AIはCES2024でも主要テーマとして扱われたが、展示の中心は生成AIの活用だった。CES2025では、フィジカルAIによってAI活用の場をデジタル空間から物理世界に広げる発表が相次いだ。
ヒューマノイドロボットは、人工知能が人工の体を手に入れるという点でフィジカルAIの象徴的な例と言える。ヒューマノイドロボは人間を模した形状のため、人間向けに設計された既存の環境で活動できるという特徴があり、社会の多様な場面で役立つとの期待が大きい。二足歩行などの繊細な動作や、外部環境の正確な認識など課題が多かったが、AIとの融合によって急速に解決されつつある。
中国のUnitree Roboticsはヒューマノイドロボ「G1」を展示した。来場者と握手したり、人が蹴っても倒れない様子を示したりして、人間のような動作の柔らかさやバランス性能をアピールした。現地では担当者がリモコンで操作していたが、G1は3D LiDAR2と深度カメラを搭載しており、周囲の環境を把握して自律的に移動できるという。
自動車サプライヤーの独Schaefflerのブースでは、協働ロボ(同じ作業場で人と一緒に働くロボット)が注目を浴びた。同社の「EMMA」と、米Agility Roboticsのヒューマノイドロボ「Digit」が製造現場で共に働くデモを展示した。特にDigitは反復作業ではあるが自律的に行動し、重ねられたカゴの1つを持ちあげ、3メートルほど離れたコンベアーに移していた。手先の動きは正確で二足歩行も安定していた。Schaefflerは自社工場で、Digitを人間の作業員や既存の生産ロボットと一緒に稼働させることを計画している。
コミュニケーション用途のロボでは、中国TCLの「AI Me」が大きな展示スペースを割いていた。卵型のかわいらしい外見は「感情的なつながり」を目指しているといい、AIが音声や人の表情を認識して反応を返す。自ら家中を移動して家族の営みを記録、分析し、スマートホームをはじめ多様なデバイスと相互連携することを目指しているようだ。
日本のMIXIが展示した「Romi」はAIが周囲の音声や景色を認識して対話する固定式のコミュニケーションロボだ。雑談を楽しむことを主な目的とし、「感情に寄り添った会話」が特徴だという。一方、カナダのRealbotixは人の上半身型の「Aria」を展示した。対話するだけでなく、内容に応じて表情を変えたり視線が話者を追いかけたりするが、動作はややぎこちない部分も感じられた。
既に実用化が進んでいる分野のロボットも、AIとの融合による進化が見えた。中国のRoborockは今回新たに「Saros Z70」を発表した。カメラとアームを備え、AIによる画像認識と運動制御によって従来のロボット掃除機では対応できないサイズの物も除去できる。また、中国のLymowは芝刈り機「Lymow One」を展示した。芝を刈ると同時に粉砕して肥料として撒くことができ、AIが芝の長さや密度を超音波センサーなどで認識することで、適切な施肥による成長管理も担う。
物理的能力を持つフィジカルAIは、危険作業の代替や労働力の補完など、デジタル空間で完結する「ソフトウェアAI」では実現が難しかった社会変革をもたらす可能性を秘める。フィジカルAIの展示はCES2024ではほとんど見られず、CES2025にかけて企業の間で開発熱が高まっていることがうかがわれた。実際AIとの融合を背景にロボティクスへの投資額は急増しており、2024年は10月までに世界全体で200億ドル超と2023年の129億ドルを大きく上回っている2。また、CES2025の基調講演で米NVIDIAのジェンスン・ファンCEOはフィジカルAI開発用のプラットフォームを提供することを発表した。こうした開発環境の充実もフィジカルAIの技術革新を加速させるだろう。
次回はCES2025におけるモビリティ領域の最新動向を報告する。