もはや従業員はお客さま?
~米国で注目されるEmployee Experience~
Gallup1によると、米国の従業員の2人に1人が現在転職活動中である。離職者の41%は、「Engagement and Cultureエンゲージメント(従業員満足度)と企業文化」を離職理由に挙げ、エンゲージメントの低下と職場環境に対する不満が、最も強く離職動機に繋がっているとされる2。
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米国の従業員エンゲージメントは最近、11年ぶりの最低水準となっている。2024年12月、エンゲージメント改善や離職予防に向けて、Gallupは上司(原文では、ManagerやEmployer)に対し、再びEmployee Experience(EX)に着目する重要性を提起している3。
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EXは「従業員体験価値」と訳され、採用、成長、離職など、組織において従業員が得る一連の体験価値を意味する。2013年以降、米国デロイトは世界各国の人事担当者や会社経営者を対象に、組織運営にあたって重視したい10の潮流や情勢を調査し、報告書 Global Human Capital Trendsとして毎年公表している。2016年の調査でEXが始めてランクインした。これにより、EXは広く米国で注目されるようになった。
Gallupは、従業員が職場に満足し、価値ある体験を重ねられるようになるには、上司の意識と行動が大切と指摘する。EX向上を目指した上司の取組みが、推奨されている4。例えば、「hire(採用)」時にどのような才能に惹かれたのかを明確に伝え、それを伸ばす体制を一年かけて継続することが重要としている。この期間、従業員一人ひとりに期待することを分かりやすく示し、頻繁に仕事のパフォーマンスについてフィードバックを行うなど、従業員と並走しながら、双方、そして同僚間のネットワーク構築を促すことが、EX向上の一つのカギとされる。
最後に、日本企業においても、EX向上を意識すべき場面を考えてみる。Gallupが表現するhireは「転職」を連想させやすいが、特に日本の大企業にあっては、これに「人事異動」も該当すると考えられる。
今、日本でもジョブ型採用が増えてきているものの、メンバーシップ型として採用され、いくつもの人事異動を重ね、社内であっても「転職」に匹敵するほど仕事が大きく変わる「体験」をする従業員も多数存在する。雇用形態に関係なく、いかにスムーズに新しい「組織=部署」に馴染めるか、力を発揮できるか、成長できるか。上司として意識すべきことは、EX向上ではないだろうか。
Gallupは、「従業員は職場のお客さま」と指摘している。Gallupによると、日本でエンゲージしている従業員は6%となっており、世界平均23%と比較して極めて低い6。誰もが職場において実りのある体験ができるよう、EX向上を目指した取組みが求められる。
- Gallupは米国に本部を置き、世界160か国、約3,500万人の従業員エンゲージメントデータを収集する調査会社。蓄積したデータに基づき、80年以上に渡って職場改善に向けた提言を実施している。
- Gallupサイト<https://www.gallup.com/467702/indicator-employee-retention-attraction.aspx>
- Gallupニュース ”The Great Detachment: Why Employees Feel Stuck” Dec.3, 2024
- Gallupサイト<https://www.gallup.com/workplace/323573/employee-experience-and-workplace-culture.aspx#ite-323579>
- 前掲注4。原文は、“Today’s employees are consumers of the workplace.”。
- Gallup「日本の職場の現状 2024年版レポート」