職場の「礼節さ」、意識していますか?
~米国で注目を集めるCivility Indexとは~
今、米国では、社会や職場における「礼節さ Civility」 の度合いを示すCivility Index1が注目されている。Civilityとは、「礼儀正しさ」、「丁寧さ」、「敬意」などを意味する (対義語は、Incivility)。大統領選を控えていた2024年、米国社会の分断が鮮明になったのと同様に、職場でも分断が起こりつつあることが示唆され、働く人やビジネスへの影響が懸念されるようになった。米国における離職者の4人に1人が、職場における尊敬、共感、異なる意見を建設的に取り込む姿勢の欠如を離職理由に挙げているという2。
この点について調査を行ったのは、世界最大規模の人材マネジメント協会、米国人材マネジメント協会(Society for Human Resource Management、以下、SHRM) だ。SHRMは、世界180か国に約34万人の会社経営者や人事担当などを会員に有し、人材開発のエキスパートや研究者などと連携し、職場環境の改善策などを提言している3。
調査は、インターネットで行われ、2024年3月以降年4回、毎回1,600名以上の従業員が対象とされた。2024年12月に公表された4回目の調査結果は、以下のとおりである。
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グラフの中のパーセンテージは、「礼節さの欠如 Incivility」の度合いを表す。度合いが70%超を”ZONE 5: Code Red”「危険」、10%未満を”ZONE 1:State of Civility”「礼節が保たれている状態」として、社会と職場、それぞれにおいてどの程度礼節さが重視されているかを示している。4回の調査を通じて、「社会と職場それぞれにおいて、自分自身が、また周りの人が、無視、拒絶、敬意をもって応対されていない場面に遭遇もしくは目撃したか」と答えた人の割合の変化がわかる。
調査によると、2024年初頭から職場における礼節さの欠如=危険度合いは、すでに37%を超えており、”ZONE 3:Take Action”「対策が必要」な状態が年間通じて常態化している。さらに、2024年3月(Q1)以降11月(Q4)にかけて、社会と職場それぞれのIncivilityの度合いが悪化している。SHRMは、大統領選前の激しい政治的論争が、米国の社会と職場における分断を加速させた要因のひとつとみている。職場は社会の縮図であり、社会情勢が職場環境にも影響をしやすいからであろう。
SHRMの調査は、特にManager or Supervisor(職場の上司や監督者。以下、上司ら)に対し、気づきを与える結果を示している。
例えば、本調査4回目の回答者のうち74%が、「私が経験、もしくは目撃した職場のIncivilityを、上司らは回避する努力を怠った」と答えている。また、「自分の上司らはIncivilityを無視、放任した」と答えたのは62%にのぼる。このことから、Civility向上のためには、上司らの改善に向けた取り組みが期待されているといえよう。
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SHRMは、大統領選が終わった2025年も、米国の社会と職場におけるIncivilityの悪化は続くとみている4。選挙が終わったら社会の分断が緩和され、それに連動して、職場も良くなる、という楽観的観測ではないということだ。社会や職場の分断や歪みを解消させるには、原因に関係なく、相応の努力が必要ということを一連の本調査結果から読み取ることができるだろう。
高いIncivilityによる経済的影響も指摘されている。SHMRは、生産性の低下やアブセンティーズム(欠勤や休職状態 )による米国内の経済的損失が1日当たり27億ドルにのぼると試算する5。また、 新規雇用者1人当たり平均4,683ドルの採用コストが必要とされる。これに加えて、採用後の教育プログラムも考慮すると、離職者の増加は、組織にとって大きなコスト負担となる。
高いIncivilityの背景やこれに伴う経済的損失は、米国に限ったことではない。政治的要因に限らず、Incivilityが高まる事情はさまざまあり、もっと身近なことでも考えられる。今一度、誰もが自分自身の職場に思いを馳せて欲しい。職場の人に対して敬意をもって接してきたか、違った意見を建設的に取り入れてきたか、また拒絶や傾聴しないなどのIncivilityなシーンを見て見ぬふりをしてこなかったか。 2025年という新しい年を迎える今、それぞれが職場における礼節さの重要性を改めて考え、一人ひとりにTake Action、つまり、礼節さを重んじる行動が求められているのではないだろうか。
- SHRM, “Civility Index Q4 2024 Result”, Dec., 2024
- SHRM Web サイト <https://www.shrm.org/topics tools/topics/civility>
- SHRM Webサイト<https://www.shrm.org/home>
- 前掲注2
- SHRM Webサイト <https://www.shrm.org/mena/enterprise-solutions/insights/cost-of-incivility-addressing-workplace-challenges-into-2025>