企画・公共政策

能登半島地震にみる高齢化の進展と住宅の脆弱性

主任研究員 宮本 万理子

2024年1月1日に能登半島を襲った「令和6年能登半島地震」は石川県志賀町で震度7を観測、同県に加え、福井県、富山県、新潟県といった広範囲に被害をもたらし、特に住家被害が甚大であった。能登半島地震から得られる教訓の一つとしては、高齢化の進展による住宅や空き家の脆弱性があるだろう。今後、地震被害を軽減するための予防対策として、①特に高齢者が住む旧耐震基準の住家に対する耐震補強、②空き家の撤去による住宅更新が求められる。一方で、被災後の迅速な復興には、所有者が分からなくなった住宅・空き家に対する所有者特定のための仕組みづくりが重要と思われる。
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1.はじめに

2024年1月1日に能登半島を襲った「令和6年能登半島地震」は石川県志賀町で震度7を観測、同県に加え、福井県、富山県、新潟県といった広範囲に被害をもたらし、特に住家被害が甚大であった。今回の地震による被害が最も大きかった石川県では、住家被害がおよそ8万棟(うち、全壊した住家が約1万棟)に上ると報告されている(2024年3月29日時点)。特に、輪島市を含む能登半島中部~北部にかけて被害が大きく取り上げられた≪図表1≫。本稿では、被害が最も大きかった石川県に焦点を当て、高齢化の進展と住宅の脆弱性について考察し、地震被害を軽減するための予防対策および被災後の迅速な復興に向けた方向性を提案したい。

2.石川県の概要

石川県は、およそ4,200km2の県域を持ち、人口114万人からなる県である。県南には、県庁所在地である金沢市をひかえ、能登半島が北部に広がる。富山県、福井県からつながるJR北陸本線が能登半島中央に位置する七尾駅当たりまで走行するが、以北は穴水駅を終点とした、のと鉄道が主な交通手段となっている。輪島市や珠洲市を含む北部へは、のと里山海道を使った車での移動がメインである。当該地域は、棚田や千枚田が広がる農村地域で、近年では過疎化が著しい。石川県の被災市町は全部で19自治体あるが、本章ではこのうち住家被害が1,000棟を超える14市町について人口と世帯の動向から概要を掴みたい。

≪図表2、左≫が示すように、被災した14の市町では、金沢市の郊外に位置するかほく市を除くと全て人口が減少している(2015-2020年比)。このうち中核市である金沢市をはじめ、中都市(人口10万人以上)の小松市やその郊外に位置する能美市の人口減は緩やかである。一方で、珠洲市(11.6%減)、能登町(10.7%減)、穴水町(10.2%減)など、その他の小都市(人口10万人以下)では人口減少率が高い。JR七尾線が延伸しなかったことが、能登半島北部に位置する市町の人口減につながったものと思われる。

また、ほぼすべての市町で全国の平均高齢化率である3割を上回っており、特に珠洲市(51.7%)、能登町(50.4%)、穴水町(49.5%)といった半島北部の市町において著しい≪図表2、右≫。

≪図表3≫で家族類型別世帯数を見ると、ほぼすべての市町において単独世帯の割合が最も高い。これは、穴水町、輪島市、七尾市をはじめ、高齢単独世帯の増加によるものである1

人口と世帯の増減率から、被災市町を区分して見たのが≪図表4≫である。この区分では人口増・世帯増の拡大期から人口減・世帯増の縮小期を経て、人口減・世帯減の縮退期2へと移行することを想定している。

この区分に照らし合わせて能登半島地震と東日本大震災の被災市町とを比較すると、その特徴がより浮き彫りになる。東日本大震災における被災市町の人口、世帯は、縮小期と縮退期に位置する市町がやや多いものの、概ね3つのステージに幅広く分布している。

これに対して、今回の主な被災地である石川県では、半島北部に位置する小都市を中心に、縮退期にある市町が多いことが特徴である。

3.高齢者の住宅事情とその脆弱性

≪図表5≫から、高齢単独世帯が保有する住宅には一戸建てが多いことが正の相関から見て取れる。また、その傾向は珠洲市、輪島市、穴水町、能登町などの半島北部に向かうにつれ顕著になっている。

≪図表6≫では高齢単独世帯と旧耐震基準の住宅に高い相関が見られる。また、≪図表5≫と≪図表6≫とを照らし合わせると、高齢単独世帯の多くが旧耐震基準の一戸建てに住んでいると想定され、その割合は上記同様に半島北部に向かうにつれ大きくなる。

高齢単独世帯と居住する住宅の延べ床面積(150m2以上)との関係を見ると一定の相関が見られる。全国平均が125m2~150m2に分布していることと照らし合わせると、特に今回被害の大きかった輪島市や珠洲市の住家が全体的に大きいことが分かる。もともと北陸地方では3世代同居率が高いため全国的にも大きい住宅に居住することで知られるが、その多くは耐震化率が約5割と低いことも報告されている。

今回の被災状況を、1980年以前に建てられた住宅(旧耐震基準)と倒壊状況(半壊以上)の関係から見たのが≪図表8≫である。これによると、震度5を経験した市町に関しては住宅倒壊が軽微だが、震度6以上を経験した市町については相対的に倒壊率が高いことが分かる。

旧耐震基準は建築基準法で「震度5強程度の揺れでも倒壊せず、破損したとして補修することで生活が可能な構造基準」とされている。これと照らし合わせると、震度5の揺れに見舞われた市町の住宅被害は予期されたものと見てよいだろう3

これに対して、珠洲市、輪島市、志賀町の倒壊率が非常に高いものの、震度6以上を経験した市町全体の倒壊率がおよそ2~6割程度と幅があることも留意が必要と思われる。この要因の一つとして、高齢化の進展による空き家の脆弱性が考えられるのではないだろうか。この点に関して、次章では空き家と倒壊率との関係性を見ることで仮説を提示する。

4.空き家の脆弱性

今回の被災地の多くは、人口減・世帯減に直面する縮退期に位置する市町が多いことは先に述べた通りである。このような人口・世帯構造を背景に、高齢単独世帯の死後、住宅が空き家になっていることが予想される。実際、当該地域にはその他空き家4が全国平均の5.9%と比較すると非常に高い値となっている。

今回の被災状況を、その他空き家率と倒壊状況(半壊以上)との関係で見ると≪図表9≫のようになる。これを見ると、空き家が多い地域ほど、住宅倒壊率が高くなることが分かるだろう。その要因として、空き家物置等の非住家として利用するケースも多く、結果として耐震補強する必要がないことがある。今回の住家被害が住家より非住家に多かった事実からもその傾向が推察される。

最も住宅倒壊が著しかった輪島市では、≪図表10、左≫のように旧耐震基準と思われる空き家が前面道路に突き出るように全壊している様子が現地で散見された。一方で後方にある同年代の居住住宅に関しては一部損壊程度とその差が見てとれる。加えて、≪図表10、右≫は物置として活用されていたと思われる空き家で同様に全壊している。従って、今後、地震に対する空き家の脆弱性についても精緻な現地調査と住宅再建に向けた対応策の検討が必要と思われる。

5.終わりに

能登半島地震の被災市町には、人口・世帯減少、高齢化が顕著な地域が多く含まれている。その傾向は、住宅倒壊が著しい輪島市を中心に半島北部で顕著であった。当該地域では旧耐震基準の木造一戸建てが多く存在し、震度6以上の揺れに見舞われた被災市町においてその脆弱性が露呈した。また、高齢化の進展を背景に空き家が多い地域では、地震に対して脆弱であることが示唆された。今回の能登半島地震からの教訓を受けて、現在、被災市町から復興計画案が提示され始めている(例えば、輪島市や珠洲市では復興計画案が公開されている)。今後は、①予防対策による住宅被害軽減、②被災後の住宅再建が求められるが、以下の点で課題があると思われる。

まず、住宅被害軽減のための予防対策である。被災市町では1980年以前に建てられた旧耐震基準5の木造一戸建てが多い。これは、人口減少、高齢化の進展により住宅更新が少ないことが被害を大きくした一つの要因と思われる。今後は、特に高齢者に対する耐震改修のための行政支援が必要になるだろう。一方で、今回建物倒壊が著しかった輪島市では、もともと空き家が約2,000戸、空き家率23.5%と高く、地震に対するこれらの脆弱性が露呈することと考えられる。2024年施行の改正空家特措法では、管理不全となった空き家に対する課税措置6が取られており、今後、震災前の空き家撤去を後押しすることが期待される。

次に、被災後の住宅再建に関してである。被災市町には空き家のうち所有者が分からないものが多く見られ、住宅再建のための支援金支払いや撤去が滞る事態が多発している。今回の教訓を踏まえると、今後所有者特定のためのなんらかの仕組みづくりが必要と思われる。例えば、2024年に開始した相続登記申請の義務化は、全国の住宅・土地に関する網羅的な情報整備につながることが期待されている。こうした情報基盤を構築することで震災時の所有者特定にもつなげることが肝要だろう。

以上のように、人口減少、高齢化の進展が著しい地域での震災復興は、住宅の耐震性強化、空き家の撤去、所有者不明の住宅・土地への対応策が必要不可欠であり、今後総合的な制度運用が求められるだろう。

  • 穴水市の高齢単独世帯は20.7%、七尾市は14.5%、輪島市は21.2%となっている。(2020年時点)金沢市では65歳以上の高齢単独世帯が10.3%、非高齢単独世帯が30.7%であるため例外である(2020年時点)。
  • 縮退期は都市や農村の開発や再編に関する計画用語で、地域をコンパクトにすることを目的とした概念である。
  • 五十田(2025)によると、新耐震基準の住宅の倒壊が目立つことや、2000年基準の住宅が基準を順守していないため被害が大きくなったことが報道されており、今後公開される調査結果と照らし合わせるなかで、具体的な対応方策が試案されることになる。
  • その他空き家とは、賃貸用や売却用、二次的住宅に該当しない空き家のことで、転勤や入院などの理由で長期に人が住んでいない住宅や、建て替えなどのために取り壊す予定の住宅などが含まれる。
  • 1980年以前に建てられた建物で、震度5強程度の揺れでも倒壊せず、破損したとしても補修することで生活が可能な構造基準とされている。
  • 特定空家に指定されると、固定資産税が最大6倍増額する課税措置。

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