当社が2024年に行った幸福度調査をもとに、性・年代別で幸福度の低かった30~50代男性の人間関係の満足度を「気づかいの受け渡し経験」と「信頼できる人の有無」の2つの観点から考察した。気づかった・気づかわれた、どちらも経験している人の人間関係の満足度は高い傾向にあった。信頼できる人が1人以上いる場合も、いない場合と比較して満足度が高い傾向にあった。信頼できる人の有無に関わらず気づかいの受け渡しが上手くいくと人間関係の満足度が高くなった。まず、自ら他者を気づかうことから始めてみることが、人間関係の満足度を高める初めの第1歩となるだろう。
1.はじめに
出典:SOMPOインスティチュート・プラス 幸福度研究会報告書(2024年)
当社幸福度研究会では、日本人口における幸福度を調査した1 (以下、本調査)。
≪図表1≫は、幸福度の分布を性・年代別に示したものである。幸福度2 はとても幸せ(10点)~とても不幸せ(0点)の11段階で回答を求めており、各セグメントの平均点をグラフに示した。全体的な傾向として、若年層で高く、中年層で低く、老年層で再度高くなる傾向が見られた。2021年に発表された国際調査(145か国で行われた)でも、年代推移に従うU字のカーブが観測されている 3 。日本人口を対象にした本調査でもそれと同様の結果を示したと言える。U字傾向は男女で同様であるものの、全体的に男性の得点は低く、特に30~50代男性の得点は低かった。
本調査の最終報告書は、幸福度に影響を与える要素として「生きがい・未来への希望」「所得・富」「交友関係・人間関係」の順で影響が大きいことを示している4 。本稿では、幸福度の低い30~50代男性を対象として、「交友関係・人間関係」に着目して分析を行う。また、30~50代男性が日常生活を送る上で、個人でも改善できることを重視し、幸福度向上に資する示唆を得たい。
2.交友関係・人間関係の満足度の分布
まず、30~50代男性の交友関係・人間関係の満足度の状況を確認したい。≪図表2≫は、男性年代別の交友関係・人間関係の満足度(以下人間関係の満足度)の回答分布と平均点の表である。満足度の平均点は30~50代が低かった。加えて、30~50代は5点より低い点数(満足度が低い)の者が多く、高い点数(満足度が高い)の者は少ない傾向にあった5 。30~50代男性の人間関係の満足度は、他の年代の男性と比較して低いと言える。
出典:SOMPOインスティチュート・プラス幸福度研究会アンケート調査より作成
次節以降では、「信頼できる人の有無」、「気づかいの受け渡し」の2つに注目して交友関係・人間関係の満足度との関係を考察したい。
3.頼りにできる人・信頼できる人
(1)頼りにできる人・信頼できる人が何人いるか
≪図表3≫は、頼りにできる人・信頼できる人の人数を回答分布別に集計したものである。頼りにできる人が1人以上いる者は1,340名(全体の76.6%)、頼りにできる・信頼できる人がいない者は227名(全体の13.0%)だった。次に、信頼できる人の有無と人間関係の満足度について考察する。
出典:SOMPOインスティチュート・プラス幸福度研究会アンケート調査より作成
(2)頼りにできる人・信頼できる人の有無による人間関係の満足度
出典:SOMPOインスティチュート・プラス幸福度研究会アンケート調査より作成
≪図表4≫は、頼りにできる人・信頼できる人の有無と人間関係満足度の平均点(標準偏差)の結果 6 である。頼りにできる人・信頼できる人が「あり」の1,340名は、人間関係の満足度の平均点が6.0点だったのに対し、「なし」の227名は3.7点と低かった。30~50代男性の人間関係の満足度の平均点が5.6点~5.7点であったことを踏まえると、頼りにできる人・信頼できる人がいない人は、信頼できる人を1人以上見つけていくことは、人間関係の満足度向上にむけた1つの道しるべとも言えそうだ。しかし、それは容易なことではないかもしれない。そこで、日常の中でできる工夫の1つとして、気づかいの受け渡しに着目したので次節で確認をする。
4.気づかいの受け渡し
(1)気づかった経験と気づかわれた経験
本調査では、直近1年間の気づかった経験7 /気づかわれた経験 8 を尋ねた。その結果を≪図表5≫に示す。気づかった経験が多い者は794名(全体の45.4%)、少ない者は285名(全体の16.3%)だった。一方、気づかわれた経験が多い者は702名(全体の40.2%)、少ない者は388名(全体の22.2%)だった。それぞれの気づかった・気づかわれた経験が同数でないことから、気づかったのに気づかわれていない者、気づかっていないのに気づかわれた者等、ギャップを持つ者が一定数居ることがわかる。 そこで、気づかいの受け渡す経験(組み合わせ)が人間関係の満足度とどのような関係にあるかを次項で確認した。
出典:SOMPOインスティチュート・プラス幸福度研究会アンケート調査より作成
(2)気づかった経験と気づかわれた経験による人間関係の満足度
出典:SOMPOインスティチュート・プラス幸福度研究会アンケート調査より作成
≪図表6≫は、気づかった経験と気づかわれた経験の有無(多く/まあまあ、を「あり」、あまり/全くない、を「ない」)の組み合わせと、人間関係の満足度の関係性を示している。それぞれのセグメントに該当する者の人間関係の満足度の平均点(標準偏差)を記載している9 。人間関係の満足度 10 が最も高かったのは、気づかった・気づかわれた経験が「どちらもあり」と回答した者であった(人間関係の満足度の平均点が6.8点)。満足度が最も低かったのは、気づかった・気づかわれた経験のどちらも「なし」と回答した者であった(同3.8点)。気づかった・気づかわれた経験のどちらも経験したと回答する者の人間関係の満足度が高い傾向があり、どちらも経験しなかったと回答する者の人間関係の満足度は低い傾向があった。2番目に低かったのは、気づかった経験のみ「あり」の者(同4.3点)、となった。気づかいを経験すれば必ず満足度が上がるとは言い切れない。どちらも「あり」と比較すると、どちらかでも「なし」の者は平均点が低かった(同4.3~4.9点)。一方通行の気づかいに終わらず、互いに気づかい合う関係を重ねている状況にあることが、人間関係の満足度の高さに関連すると言える。
5.気づかいの受け渡しと頼りにできる人・信頼できる人の有無の組み合わせによる人間関係の満足度
≪図表7≫は、気づかった・気づかわれたと頼りにできる人・信頼できる人の有無の組み合わせにより、人間関係の満足度の平均点(標準偏差)の結果である。最も高くなったのは、「気づかった・気づかわれた経験の両方あり」かつ「頼りにできる人・信頼できる人が1人以上いる」と回答した者であった(人間関係の満足度の平均点が6.8点)。2番目に平均点が高かったのは、「気づかった・気づかわれた経験が両方あり」かつ「信頼できる人がいない」と回答した者であった(同5.4点)。最も低かったのは「気づかった・気づかわれた経験の両方なし」かつ「頼りにできる人・信頼できる人がいない」と回答した者であった(同2.9点)。信頼できる人が「1人以上いる」「いない」にかかわらず、気づかいの受け渡し経験がどちらもある場合は平均点が高い結果となっている。信頼できる人の有無は大事な要素であるものの、日常の気づかいを上手に受け渡しできていることは、関係性の心地よさを感じることにつながり、結果として人間関係の満足度の向上に寄与していた可能性がある。
出典:SOMPOインスティチュート・プラス幸福度研究会アンケート調査より作成
6.まとめ
30~50代男性は、気づかった経験と気づかわれた経験ともにあると回答する者は、人間関係の満足度が高くなる傾向にあった。さらに、気づかった・気づかわれた経験がどちらか一方の場合や、どちらの経験も全くない場合は満足度が低いと回答する傾向があった。頼りにできる人・信頼できる人も1人以上いる場合は、いない者に比べて満足度が高いと回答する傾向にあった。信頼できる人の有無に関わらず気づかいの受け渡しが上手くいくと平均点は高くなった。まず、自ら他者を気づかうことから始めてみることが、人間関係の満足度を高める初めの第1歩となるだろう。例えば、連絡をとっていない家族や古くからの友人に連絡をとってみる。近所の人に挨拶をする、職場の人に感謝の気持ちを改めて伝えてみる、SNSでフォローしているアカウントの投稿に「いいね!」を押してみる、等である。今の生活を大きく変えることなく、何気ない気づかいから始めてみても良いのかもしれない。無論、気づかいをすれば必ず満足度が上がるケースばかりでもない。気づかった経験があっても気づかわれない場合は、そのような人間関係から距離を置き、新たな人間関係を構築する必要も時にはあるだろう。「人に情けを掛けておくと、いつかは巡り巡って結局は自分のためになる」という意味で「情けは人のためならず」ということわざがある。これに倣うと「ちょっとした気づかいは人のためならず」なのかもしれない。
SOMPOインスティチュート・プラス 幸福度研究会報告書 「日本社会は幸せか?~多様な幸福感・幸せへの道しるべ~」(2024年) <https://www.sompo-ri.co.jp/publicity/wellbeing/ >2025年2月25日閲覧
幸福度の設問「現在、あなたはどの程度、幸せですか。「とても幸せ」を10点、「とても不幸せ」を0点として、最も近いと思う点数をお選びください。」
Blanchflower, D.G. Is happiness U-shaped everywhere? Age and subjective well-being in 145 countries. J Popul Econ 34, 575–624 (2021). https://doi.org/10.1007/s00148-020-00797-z
SOMPOインスティチュート・プラス 幸福度研究会報告書 「日本社会は幸せか?~多様な幸福感・幸せへの道しるべ~フルバージョン」p.15 (2024年)
それぞれの赤い囲みは、0点(全く満足していない)~4点、6点~10点(とても満足している)を囲んでおりそれぞれの合計の回答構成比を表している。
「わからない・答えられない」の回答者は省いて集計を行った。
「直近1年間に、あなた以外の他者に対してあなたが気を遣った経験をしましたか。」という問に対し、「多く経験した」~「全く経験しなかった」の5つの選択肢で回答を求めた。
「直近1年間に、あなた以外の他者から気を遣ってもらったと感じる経験をしましたか。」という問に対し、「多く経験した」~「全く経験しなかった」の5つの選択肢で回答を求めた。
気づかった・気づかわれた経験でどちらか一方でも、「どちらともいえない」の回答は省いて集計している。
交友関係・人間関係の満足度も0点(全く満足していない)~10点(とても満足している)の11段階で調査している。