企画・公共政策

単独世帯の増加が“住宅すごろく”を変える

主任研究員 宮本 万理子

高齢化や未婚化を背景とした単独世帯の増加は、これまで核家族をモデルとした“住宅すごろく”を変えつつある。本稿では、単独世帯の中年期から高齢期にかけての住まいの移行状況が、出生コーホートによってどのように異なるのかを見た。総じて近年の持ち家率は低下しており、なかでも男性単独世帯の持家率は経済的な理由から低い。これに対して、女性の持ち家率は増加しており、特に中年期に借家から持ち家へと移行する傾向がある。女性の社会進出と所得の増加がそれを後押ししている。男女共に、雇用形態の違いによる所得格差、親や配偶者からの相続の有無等が持ち家率に影響を与えていると思われる。現在、借家住宅に住む中年単独世帯がやがて高齢期に突入する頃には、住宅問題はより大きな社会問題になることが予想される。増加する単独世帯を前提とした住宅政策の立案には、単独世帯のニーズと住まい動向を注視し、まずは実態を正確に掴むことが必要だろう。
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1.変容する“住宅すごろく”

日本のライフステージに合わせた住み替え状況を図式化したものが“住宅すごろく”で、日本の建築・都市計画学者の上田篤が考案したものである≪図表1≫。高度経済成長期の終身雇用、年功序列型賃金、核家族を標準型にした住み替えモデルをすごろく形式で端的に表現している。ここでは、親元を離れ寮・寄宿舎での学生生活(図表1中の赤枠で囲まれた4)、新入社員時代には独身寮、その後結婚による社宅住まいを経て(同14)、公団・公社アパート、賃貸マンション(同16、18)、建て売り分譲住宅(同21)へとライフステージに合わせて住まいが変わる。最終的に庭つき郊外一戸建住宅を取得し「上り」となる。

このような住み替えモデルは、進学・就職で地方圏から大都市圏に流入し、結婚・子育てのために都心から郊外部に持家を取得して移り住む団塊の世代前後で広範に見られた。経済成長と高い婚姻率が、多数の人々に、標準化された住宅供給を可能にしたと言えよう。これに対して、近年の高齢化や未婚化を背景とした単独世帯の増加は、急ピッチで住宅すごろくを変えつつある。なかでも、未婚者や離別者の単独世帯が増加する中年期の様相は、住宅に対するニーズを大きく変えている。今後、単独者の新たなライフコースに合わせた住宅政策が必要になるだろう。本稿では、増加する単独世帯の住まいに着目し、今後予想される諸課題を示したい。

2.増加する単独世帯

ライフステージに合わせた住み替えが今後どのように変わるのか、世帯構成の変化と併せて具体的に見てみたい。国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」によると、日本の世帯は、1980年時点では約2割に過ぎなかった単独世帯が、2020年には全体の約4割(約2,000万世帯)と最も多くなっており、2050年には4割超にまで増加する見込みである≪図表2≫。一方で、「その他世帯(主に3世代同居)」は1980年時点で約2割を占めていたが、2050年にかけて約1割に減少する。また、「夫婦と子世帯」は、約4割から約2割に減少することが推計されており、こうした世帯構成の変化は、ライフコース上の住まいの選択を変えるものと思われる。以降では増加する単独世帯の内訳を、高齢期(65歳以上)と中年期(35~64歳)1に分けて見てみたい。

3.多死・未婚化社会への突入

(1)高齢期の単独世帯増加の要因:高齢化と死亡者数の増加

日本の高齢化率は2024年時点で約3割となり、世界でもっとも高い2。≪図表3≫では、1930年~2070年にかけての死亡者数の推移を示し、併せて高齢化率を見る際の起点となる65歳以上と以下で死亡者数の推移を見ている。

これを見ると、現在まで減少してきた64歳以下の死亡者数は、今後も減少する予測となっているが、高齢者数の増加を背景に65歳以上の死亡者数は年々増え、2020年には全体の9割以上を占める。2040年をピークに死亡者総数は減少に転じるとはいえ、2025~2070年にかけて年間の死亡者数はおよそ150万人になる。つまり、多くの高齢者が死亡する社会になりつつあると言える。

高齢期の標準パターンは、高齢男性の死後、配偶者である高齢女性が単独世帯となるケースである。厚生労働省統計局によると、2020年時点の男性平均婚姻年齢は33.4歳、平均余命は84.4歳となる。一方で女性平均婚姻年齢は31.3歳、平均余命は89.3歳となる。これに基づくと、男性配偶者の死後、家族と同居する人以外は、女性は平均して7年間ひとり暮らしをすることになり、子や孫と同居しない80代以降の高齢女性がこれに該当する。

(2)中年期の単独世帯の増加:未婚率の上昇

単独世帯の増加は高齢期に特有の現象ではなくなりつつある。中年期の未婚者・離婚者が増加し、単独世帯が増えているからである。≪図表4≫では、男女別、コーホート別に未婚率の推移を見ている。これによると、若いコーホートほど未婚率は高くなり、中年期に差し掛かる35~39歳時点の未婚率は、男女ともに1985~1989年コーホートがもっとも高く、男性が約4割、女性が約3割と、男性の未婚率の方が高い。中年期の未婚者の増加は単独世帯の増加へとつながり、それに伴って住まいも変化するはずである。

4.増加する単独世帯

≪図表5≫は、ここまで概観した単独世帯について、年代別に配偶関係をまとめたものである。年代別では、若年・中年期が未婚、高齢期は死別・離別が多く、男女別では、男性が若年・中年期の未婚、女性が高齢期の死別・離別が多くなっている。それを可視化するために、≪図表6≫では、男女別、コーホート別の単独世帯率を見ている。男女共に、若いコーホートほど単独世帯率が高くなっている。ただし、男性の単独世帯率は女性を上回っている。

5.変わる“住宅すごろく”

単独世帯が増加すれば、核家族中心時代の住宅すごろくは変化する。

≪図表7≫は、男女別、コーホート別に全世帯の持ち家率の推移を見たものである。男女ともに中年期での住宅取得率が高く、50代までに60%以上が持ち家になる。コーホートが若くなるにつれ持ち家率が減少するのは、日本の経済停滞の影響とともに単独世帯の増加も原因のひとつと思われる。

性別の違いを見ると、すべてのコーホートで男性の持ち家率が女性より高い。男性は、40代後半までに住宅取得する傾向がみられる。結婚のタイミングで家族向け住宅を購入するためで、家計を主に支えるのが男性であるケースが多く、持ち家の名義人となるからであろう。

女性は、男性と比較して50代までに住宅取得する割合が低い。その理由として、既婚者は男性名義での住宅購入を基本としているからである。一方で高齢期には持ち家となる割合が高い。65歳以上の女性の持ち家率が高くなるのは、配偶者を亡くした後の名義変更によるところが大きい。

≪図表8≫は、性別、コーホート別に単独世帯の持ち家率の推移を見ている。男女ともに中年期から高齢期にかけての持ち家率が全世帯と比較して低い。総じて持ち家率はコーホートが若くなるにつれて低くなる傾向があり、持ち家志向の低下が見られる(図表7参照)。このことを、所得などの経済格差に注目して考えてみると、低所得者層の不安定な借家暮らしにまず目が向くだろう。一方で、比較的所得が高い層にあっては、結婚に捉われないことで機動力が高く多様なライフスタイルを実現するための一時的な住まいへと志向が変化したとも解釈できる。以下では、主に前者に関して性別ごとに考察を進めたい。

男性は中年期・高齢期ともに全世帯に比べて持ち家率が低い。特に中年期の男性で顕著で、全世帯は5~8割であるのに対して、単独世帯は2~6割の間で推移する。男性の場合、高収入者や正規雇用者など社会階層の高い者ほど結婚する機会が多いため、単独世帯の多くは相対的に低収入でかつ、不安定雇用者の比重が大きい3。このことが持ち家率の低さにつながる。彼らが高齢期に突入する時代には、親からの相続が期待できない低所得者層を中心に、受け皿としての住宅セーフティネットの整備が必要となるだろう。

女性は比較的全世帯の持ち家率と大差ない。男性と比較して50代での住宅取得率が相対的に高いのは、女性の住宅取得理由に「安定して住める場所の確保」がある4。その背景に、女性は親からの相続に対して慣行的に不利な立場にあることも挙げられる。コーホート別に見ると、若いコーホートほど持ち家率が低いのは男性と同様だが、その推移は複雑である。例えば、1970~1975年コーホートは40歳以降の持ち家率が男性より高い。これは2015年に女性活躍推進法が成立し、女性の社会進出に伴う所得増が大きいと思われる。これに対して、1975~1979年コーホートが40歳以降の伸び率が低いのは、バブル経済破綻の影響がちょうど出始めた就職氷河期世代に見られる特徴と解釈できる。これが1985~1989年コーホートになると35~39歳の時点で伸び率が若干高く、就職氷河期からの回復とも見て取れる。従って、中年期の女性単独世帯は、女性の社会進出と共に、経済低迷とその後の回復の影響を敏感に受けたことになる。このため、年代別のきめ細やかな住まいの救済措置が今後必要になるだろう。

これに対して、65歳以上での女性の持ち家率が高いのは、高齢期女性単独者は配偶者との死別者が多く、平均すると約7年間ひとり暮らしが続く。高齢女性の多くが年金暮らしの低所得層であることを踏まえると、住宅更新や高齢者施設への入居のための住宅補助のあり方も今後検討する必要があるだろう。

6.増加する中高年単独世帯と住まい

つぎに、男女別に中高年単独世帯の持ち家を、建て方(戸建て・共同住宅)で見てみよう。≪図表9≫は、戸建ての持ち家率を性別・コーホート別に見ている。

中年期は男女共に持ち家率が低く(男性が1~4割弱、女性が1割弱~4割弱)、60代以後急激に上がっている。この理由は複数あるが、男女共に親からの相続によって住宅取得したケースが考えられる。女性に限っては配偶者が死んだあとの名義変更によるものも多く含まれている。

≪図表10≫は性別ごとに共同住宅比率を見たものである。その比率は低いが特に男性で低く(1割程度)、女性に関しては、1960~74年コーホート(2023年時点で50~64歳)で高くなっているのが一つの特徴である。中年期のひとり暮らし女性の就労化が進み所得が上がったことや、老後に備えた住宅購入志向が高まったことが一要因と思われる。一方で、高齢期に向かうにつれ持ち家率が下がるのは、親からの相続が発生したことで戸建への住み替えになったか、兄弟姉妹や非親族を含む世帯との同居へと移行したか等の要因が考えられるが、今後詳細な実態把握にはパネル調査等が必要になるだろう。

7.これからの単独世帯の住まい

これまでの住宅事情は核家族世帯を前提にした“住宅すごろく”に合致していた。これに対して、高齢者の増加や中年期の未婚化・非婚化による単独世帯の増加が、“住宅すごろく”の変容を後押ししている様子を垣間見ることができた。

特に中年期の男性単独者の持ち家率は全世帯と比べて低い。核家族から単独世帯への住まいの移行は、持ち家志向から流動性の高い借家へと転換しつつあるといえるだろう。男性の場合、高収入者や正規雇用者など社会階層の高い者ほど結婚する機会が多いため、単独世帯の多くは経済的な理由から住宅取得が困難なケースも考えられる。既に、借家アパートの貸し渋りが多発し、保証人がいない高齢者、家賃の支払いができない生活困窮者など、多くの問題が発生している。現在賃貸住宅に住む中年単独世帯が高齢期に突入する時代には、住宅問題はより大きな社会問題になることが予想される5

これに対して、女性の中年単独世帯の持ち家率は、40代以降増加傾向にある。女性の社会進出に伴う所得の増加や、老後に備えた住宅購入の志向が背景にあることが予測される。加えて、女性の住宅志向性(インソーシングな生活スタイルを好むこと)の高さも反映されているかもしれない。特徴的なのは、高齢女性の単独世帯は、中年期から高齢期にかけて何らかの理由で住みかえを行う点である。例えば、親からの相続が発生したため戸建に移り住むことや、社会・経済的理由から兄弟姉妹、非親族世帯を含む世帯との同居暮らしになるなども考えられるが、詳細な実態調査は今後の課題である。

以上の状況を踏まえて、単独世帯のニーズに合わせた住まいの供給が、今後の住宅政策にとって重要な論点となることは明白である。特に、男女の違いによる雇用形態・所得、親からの相続格差等の諸事情により、高齢期に住宅取得ができない者に対する住宅セーフティネットの整備が急がれる。

  • 未婚率が高い34歳以下を若年期として定義し、それに対して35歳~64歳以下を中年期としている。高齢期は退職年齢を基準に65歳以上とした。
  • United Nations(2024):World Population Prospects
  • 川田奈穂子・平山洋介(2007)「中高年未婚者の住宅条件に関する実態分析」、都市住宅学59号、21-26
  • 平山洋介(2007)「女性の住宅所有に関する実態分析」、日本建築学会計画系論文集、第616号、137-143
  • 藤森克彦(2010)「単身急増社会の衝撃」、日本経済新聞出版社

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