SNSと幸福度
~アンケート調査結果からの分析~
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1.はじめに
Instagram・Facebook・X(旧Twitter)をはじめとするSNSが社会に浸透する中、SNSが幸福度に与える影響については様々な研究・議論があり、プラス・マイナス両方の評価が見られる。プラスの評価は、「有益な情報が得られる」だけでなく、「趣味や考えが近い人と繋がることができる」「離れていても大切な人や好きな著名人の日常が分かる」「自分の発信に反応がもらえる」などが挙げられる。一方、マイナスの評価は、「リアルのコミュニケーションが減り、孤独感が増す」「多くの場合SNSには投稿者の良い面がアップされるため、妬みが生じる」「自らの投稿に“いいね”がつかないと不安や焦りにつながる」「メンタルヘルスから心身の不調をきたす」などが挙げられる。議論を大まかに分類すると、「交友関係・人間関係(孤独感)」と「自己肯定感」への影響をどう見るかで、評価が分かれているようだ。そこで本稿では、当社が運営した幸福度研究会1で行ったアンケート調査(2024年7月に日本全国の18歳~89歳の男女7,471人を対象としたインターネット調査)を基に、SNSと幸福度の関係を考察する。
2.SNS使用率
アンケートでは、「あなたは普段、SNS(Instagram・Facebook・X(旧Twitter)等)をどのような目的で使っていますか。あてはまるものをお選びください。(お答えはいくつでも)」と尋ね、回答選択肢は、
①SNSは使っていない
②SNSで家族や知人と連絡する
③SNSで家族や知人・友人の投稿を見る
④SNSで芸能人、有名人、インフルエンサーなど、自分の直接の知人ではない人の投稿を見る
⑤SNSを使ってニュースを読む
⑥SNSで情報を検索する
⑦SNSに自分のできごとや関心時を投稿する
⑧投稿されたものにコメントを書き込む
⑨その他
を用意した。一口に「SNSを使っている」と言っても、②、③~⑥、⑦~⑧の使い方には段差があるだろう。そこで本稿では、③~⑥を「受動的使用」、⑦~⑧を「能動的使用」と定義する。本アンケート回答者のSNS使用率2は66%だった。使用方法別では、受動的使用、家族や知人との連絡、能動的使用の順で多かった。年代別では概ね、年代が若くなるほど使用率は高かった(≪図表1≫参照)3。
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3.SNSの使用状況と幸福度
SNSの使用状況と幸福度をクロス分析した。幸福度については、「現在、あなたはどの程度、幸せですか。“とても幸せ”を10点、“とても不幸せ”を0点として、最も近いと思う点数をお選びください。」と尋ねている。全世代では、「SNSを使用していない」方が幸福度がやや低いものの、ほぼ差はないと言って良いだろう。ただし、年代別では様相が異なる。年代が若くなるほど、各年代における幸福度の平均と比べ、「SNSを使用していない」人の幸福度との差が広がる、つまり「SNSを使っている人の方が幸福度が高い」傾向が顕著になった。また、30歳代までは自ら何かを発信する「能動的使用」をしている人の方が幸福度が高い傾向にあったが、40歳代・50歳代は逆に「受動的使用」をしている人の方が幸福度が高い傾向にあった。高齢層(60歳以上)になると、SNSの使用状況と幸福度に差はほぼなかった(≪図表2≫参照)。
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4.SNSの使用状況と交友関係・人間関係
本アンケートでは、「交友関係・人間関係」に対する満足度についても、「とても満足している」を10点、「全く満足していない」を0点として、点数で尋ねている。SNSの使用状況と交友関係・人間関係の相関関係について、全世代で「SNSを使っている人の方が、交友関係・人間関係に関する満足度が高い」という結果になった。年代別では、年代が若くなるほど、SNS使用の有無による交友関係・人間関係の満足度の差が大きくなった。また概ね「能動的使用」をしている人の方が、交友関係・人間関係の満足度が高い(≪図表3≫参照)。
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加えて、コミュニケーションの状況についてもアンケートを取っている。「あなたは、職場・学校の人たちとの対話(オンラインや電話も含む)において、親密なコミュニケーションを取りますか。」と尋ね、
①とても親密なコミュニケーションを取る
②どちらかというと親密なコミュニケーションを取る
③どちらかというと当たり障りのないコミュニケーションを取る
④当たり障りのないコミュニケーションを取る
⑤コミュニケーションを取ることはない
という回答選択肢を用意した。①と②をコミュニケーションの状態が良好だとして、SNSの使用状況とクロス分析を行った結果が≪図表4≫である。
この切り口でも交友関係・人間関係の満足度と同様、「SNSを使っている人の方がコミュニケーションの状態は良好」であり、「SNSの使用有無による差は18-19歳・20歳代(以下、若年層とする)が大きい」「SNSを“能動的使用”している人の方がコミュニケーションの状態は良好」という特徴があった。
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5.SNSの使用状況と自己肯定
本アンケートでは、「交友関係・人間関係」と同様に、「自己肯定・他者との比較」についても満足度を、「とても満足している」を10点、「全く満足していない」を0点として、点数で尋ねている。「自己肯定・他者との比較」についての満足度とSNSの使用状況をクロス分析したところ、これまでと同様の結果が得られた。つまり、「SNSを使っている人の方が自己肯定に対する満足度が高い」、「SNSの使用有無による差は若年層が大きい」「SNSを“能動的使用”している人の方が自己肯定感について満足している」というものである(≪図表5≫参照)。
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また、「あなたにとって、他者から認められ、他者に影響を与えることがどの程度、重要だと思いますか。」とも尋ね、
①とても重要だと思う
②どちらかというと重要だと思う
③どちらともいえない
④どちらかというと重要だと思わない
⑤全く重要だと思わない
という回答選択肢を用意した。①または②を回答した人(他者から認められ、他者に影響を与えることが重要だと比較的、思っている人)の割合は、「SNSを使用している人の方が高い」「若年層の方が、SNSの使用有無による差が大きい」や「SNSを“能動的使用”している人の方が高い」という結果だった。
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6.SNSの使用状況と健康状態
本アンケートでは、回答者の健康状態について、「あなたは、現在のご自身の健康状態をどのように感じていますか。あなたのお考えに最も近いと思うものをお選びください。」と尋ね、
①とても健康だと思う
②どちらかというと健康だと思う
③どちらともいえない
④どちらかというと健康ではないと思う
⑤全く健康ではないと思う
という回答選択肢を用意した。メンタルヘルスそのものを尋ねていないが、本質問で代替して確認したい。≪図表7≫は、①と②の合計を「健康割合」として、世代別・SNSの使用状況別に集計したものである。SNSを使用している人の方が「健康割合」が高く、特に若年層はその傾向が顕著である。また、SNSを「受動的使用」している人と「能動的使用」している人では明らかな差はなかった。高齢層では、SNSを「能動的使用」している人と、SNSを使っていない人の「健康割合」がさほど変わらないことは特徴的であった(≪図表7≫参照)。
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7.最後に
ここまでの分析に基づくと、SNSを使っている人の方が幸福度が高く、幸福度につながる交友関係・人間関係、自己肯定、健康(メンタルヘルス)も、より良い状況であると言える。この傾向は若年層により強く表れており、彼ら・彼女らが中高校生からスマホに親しみ、いわゆる「SNSネイティブ」であることも背景にあるだろう。ただし、本分析は相関関係を見たものであり、因果関係ではないことに留意を要する。つまり、必ずしも「SNSを使ったから幸福になった」のではなく、「元々、幸福だった人がSNSを使っている」面も考えられる。SNSを使ったことでマイナスの影響を受けた人もいるだろうし、まさに幸福は多様である。今後は、SNSによる影響にも踏み込んだアンケートや、経年変化を取るようなことも考えられるだろう。
- 前野隆司氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授、武蔵野大学ウェルビーイング学部学部長)をはじめとする有識者をお招きして、2024年4月から研究会を実施、同年11月に報告書を取りまとめた。
- 母数から「①SNSは使っていない」と答えた人数を引いて、「SNSを使用している」人数を導いた。
- 本アンケートはインターネットによるものなので、特に高齢層はインターネットを使用する割合が低くなるため、母集団にバイアスがかかっている可能性を考慮する必要がある。
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