シティ・モビリティ

地方間で人口を奪い合った10年
~地方創生10年の「これまで」と「これから」①~

上席研究員 岡田 豊

地方創生の根幹となる法律「まち・ひと・しごと創生法」が施行されてから10年を迎えて、国は地方創生を振り返る報告書を発表した。同報告書は地方創生が想定どおりに進んでいない面についても率直に記された異例のものといえる。地方創生は、東京一極集中の是正により日本全体と地方の人口減少の対策という「二兎」を追ったものといえるが、若い女性の仕事創出が地方で進まなかったこと等を背景に、東京一極集中の是正はあまり進まなかった。その一方で、少子高齢化による自然減少が避けがたいことから、地方では社会増加を目指して地方間の人口争奪戦が激化した側面は否定できないであろう。
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1.はじめに

内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局・内閣府地方創生推進事務局から「地方創生10年の取組と今後の推進方向」という報告書が2024年6月に発表された。2012年に誕生した第二次安倍政権の主要政策の1つである地方創生で、その根幹となる法律「まち・ひと・しごと創生法」が2014年に施行され、2024年はちょうど10年に当たる。
 地方創生開始以前から、地域が抱える様々な課題は存在し、その課題解決のための地域の取組が長年続いている。地方創生は、地域の抱える課題のうち、人口減少に大きな焦点を当て、その解決に向けた4つの柱「地方に仕事をつくる」「人の流れをつくる」「結婚・出産・子育ての希望をかなえる」「魅力的な地域をつくる」に取り組んできた。さらに、岸田政権誕生後は、デジタルの活用をより強く意識する形で、「デジタル田園都市国家構想」という枠組みに模様替えしながらも、4つの柱は基本的に変わらず進められている。
 一方で、2023年に公表された新たな日本の将来推計人口を見ると、多くの地域で人口減少が今後加速する。それに伴う様々な課題に対応する意義は今後も減じることはない。
そこで本稿では、同報告書を題材に地方創生の「これまで」を考察したい。

2.東京一極集中是正で「二兎」を追う

国が10年の節目に合わせてこれまでの地方創生の検証を行い、それを公表したことについては前向きに評価できよう。これまで注目施策に対する政策評価は省庁内部で行われても、今回のように大々的に公表されることは稀であるからだ。地方創生は開始当初、世間の大きな注目を浴びたものの、開始から10年がたち、世間の関心がやや薄れていることへの危機感が国にあったと考えられる。
 また、地方創生がうまくいっていない点について、あえて言及したことに、今後の地方創生の改革へつなげ、地方創生を今後も続けていくことに対する国の強い意思が伺える。
 まち・ひと・しごと創生法では、同法の目的を表す第一条において、「我が国における急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかける」、「東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保」の2つが記されている(なお、本稿では東京圏:東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、地方:非東京圏としている)。このように、地域活性化関連で「人口減少の歯止め」と「東京一極集中の是正」の2つが法律に明記されたのは初めてのことであろう。
 この人口減少については、日本全体の人口減少と、それにより特に地方の人口減少が加速して生活環境が悪化していくことの二つへの危機感があり、それゆえ東京一極集中是正が必要とされる。東京一極集中が是正されることは、地方の人口減少への有効な対策にとどまらず、出生率の低い東京圏から出生率の高い地方への人の流れが強まることで日本全体の人口減少にも効果的な一手となるからだ。つまり地方創生は、東京一極集中の是正により日本全体と地方の人口減少の対策という「二兎」を追ったものといえる。
 この東京一極集中是正は、20世紀から何度も唱えられてきたことであるが、地方創生前の議論では、メリットがデメリットを明らかに上回るとするのは容易ではなく、反対論が絶えなかった。一方、地方創生では、東京一極集中是正が日本全体にも大きなメリットがあると唱えている。これにより、これまでのメリット・デメリット論争に一定の終止符を打ち、東京一極集中是正が日本の将来に大きな意義のある重要な政策として位置づけられ、強力に推進していくことが目指されているともいうことができる。

3.地方間で人口を奪い合う

今回の報告書で特に注目される点として、まず、地域間の人口の奪い合いに言及した、以下の部分をあげることができる。
 「国全体で見たときに人口減少や東京圏への一極集中などの大きな流れを変えるには至っておらず、地方が厳しい状況にあることを重く受け止める必要がある。地方創生の取組においては、各自治体がそれぞれに人口増加を目指し、様々な施策を展開してきたが、成果が挙がっているケースも、多くは移住者の増加による『社会増』にとどまっており、地域間での『人口の奪い合い』になっていると指摘されている。」
 この「地域間での『人口の奪い合い』」との指摘は、非常に重要である。地方創生は東京一極集中是正を掲げながら、それがうまくいっていないことに加えて、実際は地方対地方で人口の奪い合いが激化していることを率直に記しているからだ。
 これらについて、まず、日本人における東京圏の転入超過数を見ると、2014年の地方創生開始後も増加傾向となり、コロナ禍でやや減少するものの、アフターコロナでは再び戻りつつある(図表1)。

《図表1》東京圏の転入超過数

(出典)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(各年版)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

また、地方における地域間での人口の奪い合いについては、北海道の日本人の人口移動(2023年)に典型的に見られる。札幌市以外の北海道の自治体は、地域経済の中心都市である札幌市に対して1万人以上の転出超過でありながら、対東京圏は3千人強の転出超過にとどまる。つまり、札幌市以外の北海道の自治体は、東京圏以上に札幌市への人口流出を意識せざるをえない。
 さらに、東京圏の転入超過数を男女別に見ると、女性が男性を凌駕している(図表2)。この点は地域経済の中心都市の多くでも同様である。この背景として考えられるのが、女性の大学進学率の上昇とそれに伴う就職であろう。大学は地域経済の中心都市に立地し、さらに大卒女性の就職先として、地域経済の中心都市で繁栄している、医療・福祉、宿泊・飲食、教育、情報通信、専門職等のサービス業は人気だ。このサービス業の業務内容において、東京圏と地域経済の中心都市で大きな違いはない点も重要である。このため、大学進学や就職において、東京圏以外に近隣の地域経済の中心都市も大きな選択肢となっている。
 地域経済の中心都市から東京圏への流出が止まらない背景には賃金格差がある。東京都の賃金水準は、他の地域経済の中心都市と比べて高く、特に年齢が上がるほど格差が広がる傾向にある。東京圏は各種物価が高いものの、それを上回る賃金水準の高さがあるともいえよう。

《図表2》東京圏の男女別転入超過数

(出典)総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」(各年版)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

4.自然減への対応に限界

 次に注目したいのは、人口減少への対応の限界を指摘した点である。
「『自然減』の対策については、個々の自治体の努力には限界があることを踏まえる必要がある」
 地方のほとんどの自治体にとっては、女性が流出することで、女性だけでなく女性が生む将来の子どもも奪われる形となって、人口減少が加速していることは間違いない。しかし、それらの自治体では少子高齢化がかなり進んでいて、死亡数が出生数を大きく上回る自然減少となっている。例えば、日本人について都道府県別に自然増減と社会増減を見ると、多くでは自然増減数が社会増減数を大きく上回っている(図表4)。地方で仕事を創出する等で女性の流出に多少歯止めをかけたとしても、大きな自然減少によって人口減少が進んでしまう。
 地方創生では、この自然減少への対応も少子化対策として地方に求められているが、自治体の努力には限界がある。それゆえ、東京圏も含めた日本全体を対象に出生率を高める政策が必要であり、実際に、国は日本全体を対象に異次元の少子化対策に乗り出しているところである。

《図表3》都道府県別自然増減、社会増減(2023年)

(出典)総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」(2024年)より、SOMPOインスティチュート・プラス作成

5.おわりに

 国が公表した地方創生10年を振り返る報告書は、地方創生が想定どおりに進んでいない面についても率直に記された異例のものとなっている。地方創生は、その根幹となる法律「まち・ひと・しごと創生法」にあるように、地方での仕事づくりを通じて東京一極集中を是正し、日本全体と地方の人口減少の対策という「二兎」を追ったものといえる。しかし、若い女性の仕事づくりが地方の多くで進まなかったこと等を背景に、東京一極集中の是正はあまり進まなかった。その一方で、少子高齢化による自然減少が避けがたいことから、地方では人口増加のために社会増加を目指したため、地方間の人口争奪戦が激化した側面は否定できないであろう。
 同報告書では、地方創生の今後のあり方についても記されている。次回のレポート「地方創生10年の「これまで」と「これから」②」では、同報告書や地方創生をバージョンアップさせたデジタル田園都市国家構想の総合戦略で記されたいくつかのキーワードをもとに、地方創生の今後のあり方を考察したい。

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