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山梨県小菅村は人口約700人、最寄りのスーパーまで自動車で40分ほどかかる。買い物利便性の向上等のため、株式会社エアロネクスト等とドローン配送に取り組んでいる。使われている機体は最大離陸重量25kg未満、積載量5kgのAirTruckで、村内に「SkyHub」という物流拠点を設置し、在庫している商品を注文に応じてドローンで運ぶ。あわせて、スーパー等の商品を自動車で届ける「お買い物代行」事業も行っている。2022年2月末時点でドローン配送230件、お買い物代行454件の実績がある13。
2021年6月11日に航空法が改正され、2023年以降、飛行経路下への第三者の立入りを管理せずに操縦者から目の届かない距離までドローン1を飛行させる「目視外、補助者なし、立入管理なし」(レベル4)2の飛行が可能となる見込みとなった。これにより、ドローンを目視外まで飛ばす、物流・医療、インフラ・プラント点検等といった分野での利用が活発になると考えられる。「空の産業革命に向けたロードマップ20223」においても、これらの分野での社会実装を促進していくことが示されている。
本稿では、航空法改正のポイントをドローンの機体・重量等に照らして整理し、今後のドローン活用の可能性について概説する。
ドローンの飛行にあたっては、「航空機の航行の安全」及び「地上又は水上の人又は物件の安全」を確保することが求められ、これらに危害を及ぼすおそれのある飛行が規制又は禁止されている。
現行の航空法では、規制されている「空港周辺」「高度150m以上」「人口密集地帯上空」の3つの空域を飛行する場合は国土交通大臣の許可、「夜間」「操縦者の目視外」「第三者又は第三者の物件から30m以内」「催し場所の上」「危険物の輸送」「物件の投下」の6種類の飛行方法をとる場合は国土交通大臣の承認が必要である。その要件は「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領4」で公表されている。「第三者の上空」の飛行は、審査要領4-3-1(1)等により禁止されている。
2022年内の施行が予定されている改正航空法の下では、ドローンによる飛行は、リスクの低いほうから「カテゴリーⅠ」「カテゴリーⅡB」「カテゴリーⅡA」「カテゴリーⅢ」の4つにわけられ「機体」「操縦者」「運航管理」のそれぞれについて資格やルールが定められる予定である《図表1》。従来許可・承認が必要であった飛行は「カテゴリーⅡB」及び「カテゴリーⅡA」とされている。
最大離陸重量が25kg未満の「目視外、補助者なし、立入管理あり」(レベル3)の飛行については、カテゴリーⅡBに分類され、定められた資格やルールを満たせば、原則として個別の許可・承認は不要となる(《図表1》青枠部分)。
「第三者の上空」(レベル4)の飛行は、許可・承認のための資格とルールが新しく定められるカテゴリーⅢに分類され、新たに飛行が可能とされた(《図表1》赤枠部分)。
物流等でドローンを使う場合、一般的には操縦者から機体を直接見ることができない「目視外」まで飛ばす必要がある。また、集落や道路を横断すれば「第三者の上空」を飛ぶ可能性がある。現行の航空法では「第三者の上空」の飛行は禁止されているので、第三者がドローンの下に入らないよう管理する必要がある。
立入管理方法としては、まず補助者を置く方法があり、「飛行経路全体を見渡せる位置に、無人航空機の飛行状況及び周囲の気象状況の変化等を常に監視できる補助者を配置し」、「飛行経路の直下及びその周辺に第三者が立ち入らないよう注意喚起を行う」と定められている(審査要領5-4(3)b)。
また2018年10月には、補助者の代わりに立入管理区画を設ける「目視外、補助者なし、立入管理あり」(レベル3)の飛行が認められた。立入管理区画は、ドローンが落下する恐れのある範囲に「立看板等を設置するとともに、インターネットやポスター等により、問い合わせ先を明示した上で上空を無人航空機が飛行することを第三者に対して周知する等、当該立入管理区画の性質に応じて、飛行中に第三者が立ち入らないための対策を行う」と定められている(審査要領5-4(3)cカ等)。
今回改正では、立入管理区画も設けない「目視外、補助者なし、立入管理なし」(レベル4)の飛行が解禁となり、立看板の設置やそのほかの周知といった立入管理に関する準備の手間や費用が削減され、飛行経路の設定がより簡便、低費用になり、飛行開始までの期間も短縮されることが期待される。
ドローンに関する規制では、リスク要因として機体重量も重視される。機体本体と燃料やバッテリー、荷物等をすべて合計した重量を「離陸重量」といい、運用上最大のものを「最大離陸重量」という。最大離陸重量を重くすれば、より重いものを、より遠くへ飛ばすことができるが、慣性力が大きいため回避にかかる時間や距離が大きくなり、万が一の墜落・衝突時の衝撃も大きくなる。そのため《図表1》のとおり、最大離陸重量25kgを境に規制に差が設けられている。また、最大離陸重量が150kg以上の機体は製造、修理等について航空機と定められている7ため、ドローンとして扱える機体は最大離陸重量150kg未満となる。
適用される規制が最大離陸重量により異なることから、主な機体は最大離陸重量25kg及び150kgを上限として開発される傾向にある。現在の主な機体とその最大離陸重量、積載量等は《図表2》のとおり。
ドローンの積載量は最大離陸重量25kg未満の機体では5kg程度、最大離陸重量25kg以上の機体では30~50kg程度となる。現在宅配便の重量制限は概ね25~30kg以内で、宅配便相当の荷物をすべてドローンで運ぼうとすると、最大離陸重量25kg以上の機体が必要となる。
国土交通省では避難所等への物資輸送を目的とした機体として、最大離陸重量150kg未満、積載量50kg、航続50kmを開発すべき性能仕様としている9。
一方、最大離陸重量25kg未満である株式会社ACSLのAirTruckは、搭載できる荷物を三辺合計80cm、重さ5kgまでとしているが、このサイズは、セイノーホールディングス株式会社との相談で「日本の宅配物の50%はこのサイズでカバーできる10」ということで決まったという。
航空法改正により解禁となる「目視外、補助者なし、立入管理なし」(レベル4)の飛行と、許可・承認が原則不要になる最大離陸重量25kg未満の「目視外、補助者なし、立入管理あり」(レベル3)の飛行においては、これから特にドローンの活用が進むことが期待される。
ただし、レベル4飛行に必要な機体の「第一種認証」について、国土交通省の検討会では「まずは山間部等の比較的人口密度の低いエリア(比較的リスクが低い)での運用に係る安全基準の策定を優先」としており11、レベル4飛行については、当面の間は、山間部等の人口密度の低いエリアに限られる見込みである。
本章では、現在のドローンの利用例から、改正後一層のドローン活用が見込まれる領域を概説する。
山梨県小菅村は人口約700人、最寄りのスーパーまで自動車で40分ほどかかる。買い物利便性の向上等のため、株式会社エアロネクスト等とドローン配送に取り組んでいる。使われている機体は最大離陸重量25kg未満、積載量5kgのAirTruckで、村内に「SkyHub」という物流拠点を設置し、在庫している商品を注文に応じてドローンで運ぶ。あわせて、スーパー等の商品を自動車で届ける「お買い物代行」事業も行っている。2022年2月末時点でドローン配送230件、お買い物代行454件の実績がある13。
2022年6月時点では「車での配送と比較してドローン配送の方がコスト負担が大きい14」とのことだが、「緊急で配送して欲しい、買ってすぐ入手したいといった時間的価値の高いものを運ぶ15」、「ドローンが飛べない条件の場合に、クルマで商品が届けられることになっている16」と、ドローンと自動車を使い分け、最大離陸重量25kg未満の機体で利便性の高い配送サービスを提供している。
この事例のような場合、レベル4飛行が可能となれば立入管理が不要となる。現在、ドローンの飛行経路を追加するには、飛行経路を設定してから立看板等の設置場所を調整して設置するとともに、ポスター等で立入管理区画を周知する必要があるが、立入管理が不要となれば、こうした手間と費用を削減できる。費用削減とサービスエリアの柔軟な追加が可能になるのではないかと考えられる。
小田原市のみかん畑、矢郷農園では、慶應義塾大学等がドローンによるみかんの出荷実験を行った。ドローンが定められた収穫ポイント上空でホバリングして静止、収穫したみかんの入ったかごをワイヤーで巻きあげ、トラックの待機する集荷場所まで自動で往復する。また、収穫ポイントは複数設定することができる。みかんの栽培は急傾斜地で行われているため、従来集荷は、人が運ぶかモノレールを敷設する必要があった。矢郷農園の矢郷代表によれば、モノレールは移設できず、車体だけでなくレールの保守も必要であるが、ドローンは収穫ポイントからの運搬が可能であり、機体の貸し借りもできるなどドローンのメリットや利用可能性が認識されている17。
使用する機体は実験ごとに変えており、最大離陸重量25kg未満の機体18と最大離陸重量25kg以上の機体19の両方が試されている。この事例のような場合、改正航空法の下では、最大離陸重量25kg未満であれば、原則個別の許可・承認は不要となる。最大離陸重量を大きくすれば一度に運べるみかんの量を増やすことができるが、農園の事情に応じて、規制や機体の価格等の費用と、運搬する量のバランスを検討することが重要と考えられる。
グリーン電力会社の株式会社afterFITは、栃木県内の太陽光発電所の点検を東京本社から遠隔操縦するドローンで行っている。ドローンは、人間が2時間かかる太陽光パネルの点検を10分ほどで行う。充電等も自動で行われるため、山間部の発電所を往復する必要もなく、急な故障や侵入者等に対しても、現場をすぐに確認できるようになった。使われている機体は最大離陸重量25kg未満となっている20。
警備や設備点検で使用する場合、大きな積載量を必要としないため最大離陸重量25kg未満の機体ですむ可能性は高い。この場合、改正航空法の下では原則として許可・承認が不要となるため、機体の認証等が進めばドローン導入までの期間や費用が削減されることが期待される。
航空法改正により、「目視外、補助者なし、立入管理なし」(レベル4)の飛行が解禁され、また最大離陸重量25kg未満の「目視外、補助者なし、立入管理あり」(レベル3)の飛行については個別の許可・承認が不要となることから、ドローン活用のさらなる拡大が期待される。ただし、レベル4飛行に必要な機体の第一種認証については、当面の間、人口密度の低い地域等に限られる見通しである。
ドローンを社会実装していくためには、経済合理性を確保していくという課題もある。NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が発表した「地域特性・拡張性を考慮した運航管理システムの実証事業」の研究成果資料21によると、ドローンの運航コストの69%は人件費となっている。同資料では人件費を削減する方法として、①申請作業の簡素化、②飛行中の補助者の削減、③1人のオペレーターによる複数のドローンの一斉飛行、が挙げられているが、今回の航空法改正では1人のオペレーターによる複数のドローンの一斉飛行はまだ実現しない。「空の産業革命に向けたロードマップ2022」では、多数機同時運航を実現する機体・システムの要素技術を開発・実証していくことを掲げており、今後の進展が期待される。
また、手続きや費用面では、大型の機体を運用すれば運用の幅が広がるものの、同時に運航コストも上昇する。ドローンの活用にあたっては地域の需要や解決したい課題を吟味し、制度や費用等に照らして適切な機体や運航方法を検討することが重要と考えられる。
PDF:MB
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